栄養素 - ビタミン

「天然ビタミン」は吸収率アップ?天然ビタミンと合成ビタミンの秘密を解説!

監修者 錦 惠那 医師 公開日:2024-08-21 最終更新日:2024-08-29

栄養素 - ビタミン

「天然ビタミン」は吸収率アップ?天然ビタミンと合成ビタミンの秘密を解説!

監修者錦 惠那 医師 公開日:2024-08-21 最終更新日:2024-08-29

ビタミン​は「天然」であることが最善なのでしょうか?市販されている多くの健康食品が「天然のビタミンB群」や「天然のビタミンC」などを謳っており、「天然のビタミンは吸収率がより高い」と主張しています。しかし、実際にそうなのでしょうか?この記事では、「天然ビタミン」の秘密を解き明かします!

天然ビタミンとは?

ビタミンは、天然ビタミン合成ビタミンの2種類に分けることもできます。天然ビタミンとは、主に果物や野菜などの食品に含まれるビタミンのことを指して使われる言葉です。一方で、化学合成されたビタミンは合成ビタミンと呼ばれます。多くの場合、「天然」という言葉は「自然由来であるということから良いイメージを想起させる表現」として用いますが、この表現には注意が必要です。
 

健康食品の表示に関する国内の規制

健康食品の表示については、厚生労働省が定めた「健康増進法」上の虚偽誇大表示や、消費者庁が所管する「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」上の不当表示(優良誤認表示)が禁止されています(1)。「健康増進法」が禁止する虚偽誇大表示については、「​​著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない」と規定しています(2)。同様に「景品表示法」においても、「実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して(中略)著しく優良であると示すものであつて(中略)一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害する恐れがあることが認められるもの​​」を禁止しています(3)。

よって健康食品では、「天然」や「自然」という言葉を事実と異なる状況で用いて、効能が事実よりも著しく優良であるという印象を抱かせるよう表記することが禁止されています。
 

「天然」のものなら安心​?​

健康食品や栄養サプリメントは基本的に加工されているため、「天然」や「自然」という表現が事実に基づいているとは言い切れません。実際に、厚生労働省による「健康食品の正しい利用法」というガイドブックでも、「天然・自然のものなら安心?」という項目を設けて、「天然・自然と謳うことが、その製品の安全性や有効性を証明するものではありません」と注意喚起を行っています(4)。

科学的な観点から見ても、「天然」という言葉は定義することが難しい表現です。健康食品の製造プロセスでは、食品原料から栄養素が抽出されることが多いですが、抽出や精製の過程で物理的または化学的な処理が必要になるため、原料が天然食品であっても、最終的な製品の中身は「天然」という言葉から消費者が想起するイメージとは異なる場合があります。

つまり、「天然ビタミン」という表現を見た消費者が想起するイメージと、実際の効能が一致している商品が存在するかどうかは、少なくとも日本では断言することが難しいということになります。

 

天然ビタミンの吸収性は良い?

市場では食品由来の栄養サプリメントの方が吸収率が良いと謳われていますが、本当に吸収が良いのでしょうか?実際には、人が摂取する栄養素の吸収については、さまざまな側面を考慮する必要があります。臨床栄養学では、ビタミンなどの栄養素が人体にどのように吸収されるかを総合的に判断するためには、栄養素の形態だけでなく、各々の身体状況(年齢、消化機能、疾患、薬物使用など)も考慮する必要があると指摘されています(5)。
 

「天然ビタミンB群」と「合成ビタミンB群」を比較した研究報告

例えば、ビタミンB群は一般的にキヌアや酵母から抽出されていると宣伝され、「食品由来で吸収が良い」とされていますが、科学的文献から見ると、この考え方は正確とは限らないと指摘されています。

2019年に、「天然」ビタミンB群と「合成」ビタミンB群の間での、生物学的利用能などの指標の違いを比較することを目的とした臨床研究が行われました。健康な被験者を2グループに無作為かつ二重盲検法で分けて、それぞれどちらか片方を摂取させた臨床研究では、​​「天然」ビタミンB群と「合成」ビタミンB群は生物学的利用能が同等であったことが示されました(6)。生物学的利用能とは、摂取した医薬品や健康食品の特定の成分が、どの程度吸収されて体循環(血液)に反映されるかを示すものです。

そのため、この研究では「天然」ビタミンB群が「合成」ビタミンB群よりも吸収されやすいとする根拠が得られなかったということとなります。なお、この研究で用いられた「天然」ビタミンB群とは、キヌアを発芽させてそのスプラウトを乾燥、粉砕することで製造された市販のサプリメントを指しています。この結果は、「天然ビタミンB群の方が合成ビタミンB群より有意に生物学的利用能が高い」と仮定して研究を始めた研究チームにとっても、驚きの結果であったと報告されています
 

「天然ビタミンB群」と「合成ビタミンB群」の効能の差は?

そんな中、2019年に報告された上記の臨床研究では、生物学的利用能だけでなく、酸化ストレスや身体に重要な働きをする代謝物のレベルも比較されました。その結果​、天然ビタミンB群と合成ビタミンB群の間で有意差は認められませんでした(6)。​つまり、「天然ビタミンB群と合成ビタミンB群の効能の差が、偶然によるものや誤差である可能性を否定できない」という結果であったということとなります。これに関しても予想と異なる結果が出たことに研究チームは驚きを表しています。
 

合成ビタミンは安全ではない?

また、合成ビタミンの安全性について疑問を抱く人が多い現状ですが、過去百年以上にわたるビタミンに関する研究の中では、すでに何十万もの論文が投稿されており、そのうちの人を対象とした臨床研究や動物実験のほとんどは合成ビタミンを用いたものです。特に、人を対象とした臨床研究では安全性が最も重要なポイントであるため、安全性に最も重きを置いた上で研究がデザインされてきました。一般に知られているビタミンDはカルシウム吸収を促進するという事実や、ビタミンCはコラーゲンの形成を促進するという事実も、そのほとんどが合成ビタミンを用いた上で安全性に重きを置いてきた研究の歴史から導かれたものです。

そのため、「天然ビタミンの方が合成ビタミンよりも安全であるという確証はない」という、上記の厚生労働省による「健康食品の正しい使い方」で示された注意喚起と同じことが、現時点での科学においては考えられています(7)。
 

合成ビタミンは身体に良くない?

食品から抽出された栄養素と合成栄養素のメリット・デメリットは常に学界で議論されてきましたが、これらを明確に比較してその差を説明した臨床研究は少ないものでした。

 

ビタミンの健康食品はどのように選べば良い?

これまでの研究報告や厚生労働省の指針をまとめると、天然か合成かという点以上に私たちが気をつけるべきことは、「自分に摂取が必要かどうか」です。どちらのビタミンにも健康に役立つ効能は含まれると考えられてはいますが、それが今のご自身にとって必要かどうかを冷静に判断した上で、必要な場合にのみ補給することが大切です​。

上記の厚生労働省による「健康食品の正しい利用法」というガイドラインでも、「健康食品の正しい使い方は、それを使うことによって、食生活・生活習慣の改善が期待できる場合に使用することです」と推奨されており、健康食品の効能だけで改善しようとすることには注意を促しています(4)。また、正しい使い方をする上でも、健康食品を選ぶ際は、魅力的な表現に惑わされることなく、事実に基づいた表現をしている、安全性と有効性の両方を兼ね備えた高品質なメーカーを選ぶことが重要となります。