「体がだるい」、「やる気が出ない」というような身体的・精神的な疲労・倦怠感は日常的に多くの人が感じるもので、疲労や倦怠感で悩んでいる方は少なくありません。疲れや倦怠感は、忙しい生活や精神的ストレス、睡眠不足などさまざまな原因によって生じますが、他の病気による症状のひとつである可能性もあり、注意が必要です。
疲労に関する大規模調査によると、20~79歳の男女において疲労を感じている人は約8割(人口換算:7234.4万人)にも上り、高い水準で推移していることが報告されています。この記事では、疲労や倦怠感の原因を分析、疲労や倦怠感の改善方法などについてくわしく説明しています。(1)
倦怠感とは?
倦怠感とは「身体的・精神的に『だるい』と感じる自覚症状で、疲労感や疲労しやすい状態などとほぼ同様の意味である」と定義されています。過度の身体的・精神的活動や病気などにより引き起こされており、思考能力や注意力の低下、行動量の低下、目のかすみ、頭痛、肩こり、腰痛などがみられることがあります。一般的に、「だるい」という表現のほか「気力が湧かない」、「やる気が出ない」、「疲れがとれない」、「体が重い」という表現が用いられることもあります。
疲労や倦怠感は体が休息を必要としているという重要なサインであるため、身体的・精神的に休息を取ることが重要です。休息をとっても疲労や倦怠感が回復しない場合や、疲労を感じさせる活動をしてないにも関わらず疲労や倦怠感を感じる場合は、隠れた病気が原因となっている可能性もあり、注意が必要です。(2)(3)
倦怠感の原因
倦怠感の原因は多岐にわたり、さまざまな身体的要因・心理的要因が関係しています。また、複数の原因によって疲労や倦怠感が引き起こされている可能性もあります。以下は、疲労や倦怠感の主な原因です。
過度な身体活動
過度な労働(過労)や運動は、肉体的な疲労を引き起こす原因になります。過度な労働や運動によって体にかかる負荷が大きくなると、自律神経の中枢である脳にかかる負荷も置きくなり、疲労が生じるとされています。(2)(3)
ストレス
ストレスは精神的な疲労の原因となり、ストレスが続くと慢性的に疲労や倦怠感が続くことがあります。過度なストレスがあると、体の免疫力に関わる重要な細胞であるNK(ナチュラルキラー)細胞やリンパ球の働きが低下することが指摘されています。体の免疫機能が低下することで、疲労や倦怠感を感じやすくなったり病気にかかりやすくなったりします。(2)
睡眠不足
睡眠と疲労は密接に関係しており、不眠症、睡眠リズム障害、睡眠時無呼吸症候群などは疲労や倦怠感の原因となります。睡眠は体の回復にも重要な役割を果たすため、睡眠不足の状態が続くと体の回復が遅れ、疲労を感じやすくなります。また、睡眠不足が疲労感をつのらせ、脳の前頭葉などの働きを低下させるということも明らかになっています。くわしくは、後述の「睡眠と倦怠感の関係性」の章でご説明します。(4)
病気
2週間以上にわたって倦怠感が続く場合、ほかの病気の症状のひとつとして疲労や倦怠感が生じている可能性があります。疲労や倦怠感の症状があらわれる可能性のある疾患としては、悪性腫瘍(がん)や感染症、内分泌・代謝疾患(糖尿病、甲状腺機能低下症など)があります。うつ病や不安障害など精神的な病気も、疲労や倦怠感の原因となることがあります。くわしくは、後述の「倦怠感が長引くのは病気?」の章でご説明します。(2)
低栄養
低栄養になると筋肉量が減少し、疲れやすくなると考えられています。バランスの良い食事が重要ですが、とくにビタミンB群は疲労を回復させる役割もあるため、不足すると疲労や倦怠感を感じる原因となる可能性があります。(5)(6)
睡眠と倦怠感の関係性
睡眠は心身の疲労回復機能などの役割があり、健康に欠かすことのできない重要な要素です。睡眠不足の状態が続くと、体が十分に休息を取れず、エネルギー不足により疲労や倦怠感を引き起こす可能性があります。また、なかなか寝つけない・早朝に目が覚めるなどの睡眠障害がある場合、睡眠の質が悪くなり、翌日の疲れや倦怠感につながる可能性があります。したがって、疲労や倦怠感を改善するためには睡眠を改善することが効果的だといえます。(7)
十分な睡眠時間を確保する
疲労や倦怠感を改善するためには、十分な睡眠時間を確保することが重要です。しかし、厚生労働省の調査によると、20~59歳の各世代において睡眠時間が6時間未満の人は約35~50%を占めており、十分な睡眠時間を確保できていない人が多いことが明らかになっています。
成人における適正な睡眠時間は個人差がありますが、約6~8時間だと考えられており、1日の睡眠時間が少なくとも6時間以上確保できるように努めることが推奨されています。(7)
睡眠の質の改善
十分に睡眠時間を確保するだけでなく、質の良い睡眠を取ることも重要です。睡眠には心身の回復機能があり、睡眠の質が悪いと疲労や倦怠感が生じるだけでなく、疲労とも関連性が高いとされるうつ病などの発症リスクも高まる可能性があります。
睡眠時間の不足に加え、仕事などによる日中のストレス、就寝直前の食事や朝食抜きなどの食生活の乱れ、運動不足などは睡眠の質を低下させる原因となります。しっかりと睡眠によって休息感を得るためにも、生活習慣を改善することや睡眠環境を整えることが重要です。(7)
倦怠感が長引くのは病気?
過度な労働や激しい運動などの身体活動に伴う疲れや倦怠感は、休息をとれば自然と回復します。しかし、休息をとっても倦怠感が回復しない場合や、何もしていなくても疲労感や倦怠感を感じる場合、長引く2週間以上の倦怠感がある場合は、隠れた病気が原因となっている可能性があります。疲労や倦怠感の原因となる疾患には、以下のようなものがあります。(2)
感染症
細菌感染やウイルス感染などの感染症に罹ったあと、疲労や倦怠感の症状があらわれることがあります。6ヶ月以上疲労が続く場合は「慢性疲労症候群」と診断されることがあり、とくに感染後の慢性疲労症候群は「感染後慢性疲労症候群」と呼ばれています。感染と過労などによる身体的・精神的ストレスなどが相互に作用することで、疲労や倦怠感が発症する可能性が高いと考えられています。(2)
悪性腫瘍(がん)
がんの症状や、がん治療の副作用として倦怠感は多くみられる症状です。がんに関連した倦怠感は、痛みや貧血、気分の落ち込み、不眠、低栄養状態、筋力低下、感染症、脱水、電解質のバランスの異常などが原因となると考えられています。(8)
糖尿病
糖尿病は、血糖値を下げるインスリンの分泌量低下やインスリンの働きの低下により、血糖値が高くなる病気です。糖尿病の初期症状では、疲れやだるさといった倦怠感のほか、喉の渇きや頻尿、体重減少などがみられることが多いとされています。(9)
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は、甲状腺の働きが低下することで甲状腺ホルモンの分泌が低下する病気で、とくに女性に多くみられます。甲状腺ホルモンが低下すると代謝が落ち、疲労感や無気力、むくみ、寒気、体重増加、便秘などの症状があらわれます。(10)
うつ病・不安障害
うつ病や不安障害などの精神的な病気があると、無気力やだるさ、倦怠感を生じることがあります。健康な人でも不安や緊張、怒り、抑うつ、混乱などのネガティブな気分があると疲労を感じやすくなるということが報告されており、精神状態と疲労や倦怠感は関連性が高いことが明らかになっています。(2)(9)
まとめ
疲労や倦怠感は多くの現代人が抱える問題で、過労や睡眠不足、ストレスなどの日常生活に起因したものから病気に至るまで、さまざまな原因が考えられます。多くの疲労や倦怠感は休息や生活習慣の改善によって解消されますが、休息を取っても解消しない倦怠感、日常生活に支障をきたすほどの強い倦怠感、長引く倦怠感などがある場合は、病気が隠れている可能性もあるため、早めに医師に相談することが重要です。倦怠感やだるさ以外にも気になる症状がある場合は注意しましょう。