日本の平均閉経年齢は50.5歳といわれており、閉経時期を挟んだ前後10年間を更年期といいます。更年期はこころとからだの転換期で、重い不調があらわれる女性もいます。辛い症状に悩まず、正しい対処をするために更年期や更年期障害について知る必要があります。
この記事では更年期の定義や更年期障害の症状、原因、治療法などについて丁寧に紹介します。現在更年期を迎えている方も将来更年期を迎える方も、更年期の過ごし方の参考にしてみてください。
更年期障害とは?
更年期障害とは、更年期にあらわれるさまざまな不調の中で、他の病気に因らない症状を更年期症状と呼び、これらの症状の中で日常生活に支障をきたすような状態を更年期障害といいます。
更年期とは?
閉経を中心にその前後の10年間のことを更年期と呼びます。閉経とは、月経が永久に停止した状態を指し、臨床的には1年以上月経がない場合に閉経と診断します。日本人の平均閉経年齢が約50歳であるため、更年期は45〜55歳の10年間を一般的には指します。しかし、閉経年齢は個人差があるため、紹介した更年期の時期は目安と考えてください(1)。
更年期の段階
最近、世界的には、更年期を閉経移行期と閉経後という分け方がされています。閉経移行期はさらに前期と後期に区分され、前期はこれまで周期的にきていた月経周期が7日以上不規則になる時期と定義されています。閉経移行期の排卵障害による異常子宮出血(AUB-O)の大部分は前期に起こります。
後期は、月経の間隔が60日以上になった日から最終月経までの時期と定義されています。
閉経期は前期と後期に区分されていますが、更年期に該当するのは前期だけです。前期は、FSH(卵胞刺激ホルモン)値が高く変動が大きいですが、徐々に安定していきます(2)。
以下の表に更年期の区分をまとめました。
stages of reproductive aging workshop(STRAW+10)の分類段階 |
-2 |
-1 |
+1a、+1b、+1c |
区分 |
閉経移行期 |
閉経期 |
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前期 |
後期 |
前期 |
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持続期間 |
変動する |
1~3年 |
5~8年 |
症状 |
血管運動神経症状が起きやすい |
血管運動神経症状が非常に起きやすい |
※血管運動神経症状とは、のぼせやほてり、発汗、冷えなどなどの症状。
更年期障害の症状
更年期障害の症状は、生理的症状と心理的症状に大きく分けられます。
生理的症状
更年期障害の代表的な生理的症状は以下のものです(1)。
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心理的症状
更年期障害の主な心理的症状は以下のものです(1)。
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更年期障害の原因
更年期障害の原因は、エストロゲンの欠乏や加齢、身体的なストレス、性格、家庭環境などいくつかの因子が重なり合っていると考えられています。特にエストロゲンの分泌量が大きな変動を伴いながら減少するため、さまざまな症状があらわれるといわれています。
エストロゲンの主な機能
エストロゲンの主な機能は以下の通りです(3)。
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子宮内膜を増殖させ厚くし妊娠する準備を整える
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乳房の発達させ丸みのある女性らしい体を作る
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自律神経と感覚神経のバランスを調整する
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骨量を維持し形成する
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善玉コレステロール(HDL-C)を増やし悪玉コレステロール(LDL-C)を減らしバランスを整える
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皮膚に含まれているコラーゲンや水分量を調整してハリや潤いを保つ
エストロゲンが不足すると、これらの機能が十分に働かなくなって、さまざまな病気を引き起こすリスクが高くなります。エストロゲンが不足すると起こる可能性がある主な病気を以下にまとめました。
更年期障害の治療方法
更年期障害の治療法は、ホルモン補充療法と漢方薬、カウンセリングや認知行動療法などの心理療法、生活習慣の改善に大きく分けられます。精神症状が重い場合には向精神薬の使用を考慮します(4)。
ホルモン補充療法(HRT)
ホルモン補充療法は、不足したエストロゲンを補う治療法です。更年期の急激なエストロゲンの分泌減少を補うことで症状を軽くすることが期待できます。特に、ほてり・のぼせ・ホットフラッシュ・発汗などの血管運動神経症状や不眠に有効とされていますが、尿失禁や頻尿など生殖器の委縮症状などの症状にも有効であることがわかっている治療法です。
子宮を摘出している方にはエストロゲン単独でも問題ありませんが、子宮がある方には子宮内膜増殖症の発症リスクが高くなるため、黄体ホルモンを併用したエストロゲン・黄体ホルモン併用療法が行われています。
また、ホルモン補充療法を受けた方は、心臓・血管の病気や骨粗鬆症などの予防にもなることがわかっています。ホルモン補充療法で使用するホルモン剤には、服用タイプや塗布タイプ、貼付タイプなどがあり、それぞれに合ったものを選んで使用されています。
重い肝疾患や血栓症にかかっている方など、ホルモン補充療法を行わない方がよいといわれているケースがあるので、必ず医師に相談して副作用などの説明を受けて納得してから始めるようにしましょう。
漢方薬
漢方薬は、さまざまな生薬を組み合わせ作られており、心身のバランスの乱れを整え症状を軽減させたり、人が持っている自然治癒力を高めることで症状の改善を図ったりする治療法です。さまざまな症状や心理的症状があらわれている場合に用いられることが多く、ホルモン補充療法と併用されることもあります。
体力低下、むくみ、冷え、頭痛、めまい、貧血症状などには当帰芍薬散、体力低下、肩こり、疲労感、不安や不眠などの心理的症状には加味逍遥散、のぼせや下腹痛などの症状には桂枝茯苓丸が処方されています。
漢方薬は通販や薬局で購入できますが、体質に合った漢方薬でないと効果が期待できないため、自分で選ばずに必ず医師に相談して選んでもらってください。
向精神薬
うつや不安、不眠、意欲の低下、イライラ、情緒不安定、気分の落ち込みなど心理的症状が強くあらわれている方には、向精神薬を使用することがあります。ホルモン補充療法や漢方薬と併用して使われるケースもあるので、心理的症状が軽減しない方は医師に相談してみてください。
イライラや不安、不眠には抗不安薬、抑うつやうつ症状には抗うつ薬、自律神経失調症には自律神経調整薬、不眠症状には睡眠薬が処方されています。
更年期のケア
更年期にあらわれる症状は、日常生活の過ごし方にも影響します。そのため、生活習慣を改善することやホルモンバランスを整えるための食生活も大切です。
睡眠不足は体力だけでなく気力も低下するため、十分な睡眠をとることを心がけてください。
適度な運動は、自律神経のバランスを整える効果や体力増強、ストレス解消など更年期の症状を和らげる効果が期待できるので、無理のない範囲で運動する習慣をつけましょう。
不規則な食生活をしていると自律神経が乱れ、ホルモンバランスの乱れにつながります。朝・昼・晩3食、バランスのよい食事をとるように心がけましょう。特に、女性ホルモンと似た作用が期待できる大豆イソフラボンやホルモンバランスを整える効果が期待できるマカやビタミンE、骨粗鬆症予防のためのカルシウム、カルシウムの吸収を助けるビタミンDなどの栄養をとるようにしてください。
食事で必要な栄養を取るのが難しい方は、サプリメントを利用すると効率良く摂取することができるのでおすすめです。
まとめ
更年期障害の原因や症状、治療法などについて紹介しました。更年期障害は、ホルモンバランスの変化や家庭環境、ストレス、性格などさまざまな要因が重なり合って症状があらわれるといわれています。そのため、バランスのとれた食事や良好な生活習慣を維持することも重要です。日常生活に支障をきたすほど症状がひどい場合は、更年期障害ではなく他の病気が原因であることも否定できないため、必ず医師の診察を受けるようにしてください。