花粉症は、「日本人の国民病」とも言われるアレルギー疾患で、その有病率は4割にものぼるとされている、非常に身近な病気です。
花粉症は、日常生活に大きな影響を与える症状を数多く伴い、生産性や生活の質の低下に関わる重要な疾患であることから、さまざまな研究が行われてきました。
そのなかで、免疫機能に深く関わる腸内環境への関心は非常に高く、いわゆる善玉菌が持つ花粉症への効能に期待が集まっています。
この記事では、腸内環境と花粉症の関係を解説しながら、善玉菌の摂取による花粉症への効能を調べた研究報告例を紹介し、花粉症対策における腸内環境の重要性をまとめます!
花粉症の基礎知識
花粉症はどんな病気?
花粉症は、花粉によって引き起こされるアレルギー疾患です。
水のような鼻水や、繰り返すくしゃみ、鼻づまり、目のかゆみや異物感などのさまざまな症状を引き起こす疾患で、花粉飛散量に比例して症状が悪化する傾向があります。
鼻症状は呼吸がしづらくなるため、集中力や睡眠の質の低下など、勉強や仕事、家事に大きな影響を及ぼします。
また、花粉症の人の中には、果物や生野菜を食べた後、数分以内に唇、舌、口の中や喉に違和感があらわれることがあります。
これは「口腔アレルギー症候群」と呼ばれており、花粉にあるアレルギーの原因となる物質(アレルゲン)と、果物や野菜に含まれるアレルゲンが似ているために起こると考えられています(1)。
民間の調査では、花粉症による仕事の生産性の低下が招く経済損失は、1日あたり2,000億円を超えると試算されており、その影響の大きさが懸念されています(2)。
花粉症になる人はどのくらいいる?
日本人の花粉症の有病率は、ここ数十年の間に年々高まってきたことが知られています。
1998年当時は約20%だった有病率は、約10年ごとに10ポイント程度上昇して、2019年時点では40%以上となっていることが報告されています(3)。そのなかでも、花粉症全体の7割はスギ花粉症であると考えられており、近年はさまざまな対策が進められています。
令和5年5月には政府により、花粉の発生源となるスギの木の代採や植え替え、花粉の少ない苗木の生産拡大などを推進する花粉症対策が閣議決定されるなど、花粉症の重大性は広く認識されています。
花粉症のメカニズムと免疫の関係
ここからは、花粉症と腸内環境の関係においても重要な、花粉症を引き起こすメカニズムと免疫の関係をかんたんに解説していきます。
花粉症は、お体が異物を撃退するために働かせる免疫機能が、花粉の侵入に対して過剰に働くことでアレルギー反応を起こしてしまう疾患です。
体内に花粉が侵入すると、私たちの体は必要となる抗体を産生することで花粉を排除します。
ある程度の抗体量までは、症状を引き起こすほどの免疫反応には至りませんが、何度も花粉が侵入して抗体量が蓄積されていくと、免疫機能が花粉に対して「体を守るためにアレルギー反応を起こす必要があるものだ」と判断してしまいます。
それにより、次の花粉の侵入に対してヒスタミンやロイコトリエンなどの物質が産生されるようになることで、花粉症の症状が引き起こされてしまいます(4)。
そのため、長期的に花粉曝露を繰り返すことで、抗体の量が蓄積したある時期を境に花粉症を発症することとなってしまいます。
腸内環境と花粉症の関係

免疫に深く関わる腸内細菌
私たちの腸内にはさまざまな腸内細菌が共生しており、「私たちに有益な働きをする菌」「有害な働きをしてしまう菌」「そのどちらでもない菌」の3つの勢力がそれぞれ集団を形成して、互いに影響を及ぼし合いながら腸内環境のバランスを保っています。
さまざまな腸内細菌は、私たちが持つ多くの免疫細胞に影響を与えることが知られています。
たとえば、いわゆる善玉菌として知られるビフィズス菌は、短鎖脂肪酸という免疫細胞の働きを適切に調整する物質を作ることにより、正常な免疫系の維持に貢献しています(5)。
また、腸内環境が免疫系に対して大きな影響力を持つと同時に、免疫系が腸内環境のバランスを制御することも近年の研究で明らかにされており、腸内環境と免疫は互いに影響を及ぼし合う、非常に密接な関係であることが広く知られています(6)。
実際にこれまでの多くの研究により、腸内環境のバランスの乱れが自己免疫疾患やアレルギー疾患、がんなどのさまざまな病気の発症や病態に影響を及ぼすことが示唆されてきました(5)。
そのなかで、腸内環境のバランスの乱れが免疫系の不調を通じてアレルギー疾患に関わることから、アレルギー疾患のひとつである花粉症にも腸内環境が関連すると考えられ、さまざまな研究が実施されてきました。
花粉症には一人ひとりが持つ腸内細菌の特徴が関わる?
胎児から成人するまでの間にさまざまな要因で腸内細菌を定着させていくことで、腸内環境を成熟させていきます。そのため、一人ひとりの腸内環境は異なっています。
近年、一人ひとりの腸内環境の構成を大きなタイプに区分した「エンテロタイプ」に関する報告が集まっており、その人の腸内環境の特徴とさまざまな体の働きとの関連が研究されています(7)。
2023年の最新の研究報告では、その人の腸内環境の特徴と生活習慣(特に食習慣)が、その人の花粉症発症率や重症度を予測するうえで重要な指標になり得ると報告されています(8)。
そのため、その人の腸内環境の特徴に合わせた食生活の変更や、善玉菌・プレバイオティクスによる腸内環境の調整が、花粉症対策に効果を発揮すると期待されています。
乳酸菌摂取の花粉症への効果
腸内環境のバランスが免疫系の働きやアレルギー疾患に関わることから、善玉菌が花粉症対策に有効な働きをすると考えられてきましたが、実際にヒトを対象とした研究ではどのような結果が報告されてきたのでしょうか?
ここは、具体的な報告例をご紹介します。
植物性乳酸菌K-2(Lactobacillus paracasei K71)という菌株を用いた研究では、スギ花粉症患者に植物性乳酸菌K-2株を1000億個相当含む錠剤またはプラセボを8週間摂取してもらい、花粉症による鼻詰まりやくしゃみ、喉の症状を評価しました。
その結果、乳酸菌K-2株を摂取したグループで、鼻と喉の両方の症状が有意に抑制されて、乳酸菌摂取の花粉症への有用性が示唆されていますと報告されています(9)。
花粉症対策のポイントと善玉菌の活用

花粉症対策のポイント
花粉症の基本的な対処法には、花粉を回避すること(抗原回避)、出てくる症状を抑える治療法(対症療法)、アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法、皮下免疫療法)などがあります。
花粉症は、花粉に曝される頻度が多いほど発症リスクや症状の強さが高まると考えられており、花粉の飛散量予報などを活用した抗原回避は、発症予防と重症化予防の両方に効果的な、花粉症対策の最も重要なポイントです。
対症療法は、主に抗ヒスタミン薬などを用いた薬物療法が中心で、花粉飛散シーズン前や症状がごく軽いときから開始しておくことで、症状の悪化を抑えられることがわかっています(1)。
アレルゲン免疫療法は、定期的にアレルゲンとなる物質を投与して徐々に体を慣らしていくことで花粉に対する反応を弱める治療法で、こちらも重症化する前に早期に始めることで効果が出やすくなることが知られています(13)。
花粉症への乳酸菌の活用
健康な腸内環境のバランスを維持することは、正常な免疫機能の維持に繋がり、花粉症へ有益な働きをすることが示唆されています。
乳酸菌は、さまざまな菌株でその免疫への働きが研究報告されており、このような乳酸菌を日常に取り入れて活用することも、花粉症対策に効果的だと考えられます。
花粉症には、抗原回避や早期の治療開始などの基本的な対策が重要です。
これらの基本的対策を意識しながら、生活のなかに取り入れられる乳酸菌摂取を活用して腸内環境を整えると、健康な免疫状態の維持に繋がり、花粉症対策としてさらに効果的だと考えられます。