令和元年の国民健康・栄養調査によると、およそ2200万人の方が空腹時のコレステロール値の上昇を指摘されています(1)。実際に、職場の健康診断で「LDLコレステロールや中性脂肪が高い」と指摘された脂質異常の方の割合は3割以上にのぼります。しかし「そうは言われても、症状もないしどこが悪いのかわからない」「LDLコレステロールを下げたいけれど、何をどうしたら良いかわからない」という方も多いことでしょう。
今回は、そもそもLDLコレステロールとは何かを簡単に説明するとともに、LDLコレステロールとHDLコレステロールの違いやLDLコレステロールの働きと基準値、コレステロールが高い・低い時の症状、そしてLDLコレステロールを下げるためにはどうすれば良いのかなどについて、具体例を入れながらわかりやすくまとめました。
血中脂質とは何か?
脂質とは、そもそも身体の中の成分のうち水に溶けないもののことを言います。血中脂質とは、血液中に含まれる脂質の総称です。血中脂質は主に、コレステロール、中性脂肪、リン脂質、遊離脂肪酸などに分けられます。
コレステロールは、体内で合成できる脂質の一つです。細胞膜の主な成分の一つであるとともに、性ホルモンや副腎皮質ホルモン・ビタミンDなどの元となる物質です。肝臓で作られ、胆汁酸に変換されます。コレステロールは水に溶けにくいため、血液中ではタンパク質と結合し、リポタンパクと呼ばれる粒子の形で存在しています。粒子の大きさや比重(密度)によってカイロミクロン、VLDL、IDL、LDL、HDLの5種類に分けられ、それぞれ異なった働きを持っています。
中性脂肪は身体の中にある脂質の9割を占めています。エネルギーの元となる重要な脂質であり、ビタミンや必須脂肪酸など、身体に必要な栄養素を摂り入れる際に重要な働きをします。なくてはならないものですが、多すぎると余分な脂肪として身体に蓄えられ、肥満や生活習慣病の原因となります。
リン脂質は、身体の中の脂質とタンパク質を結びつけ、全身に脂質を運ぶ手助けをしたり、情報の伝達を担う脂質です。コレステロールと同様に、細胞膜の主な成分として知られています。主なリン脂質としては、レシチンが知られています。
遊離脂肪酸は、中性脂肪の元となる脂肪酸のことです。筋肉が収縮する際のエネルギーとして利用されます。遊離脂肪酸が増えすぎると中性脂肪として血液中に出ていきますが、この際HDLコレステロールが減ることが知られています。
LDLとHDLの違い
LDL(Low Density Lipoprotein)とは低比重リポタンパク質、 HDL(High Density Lipoprotein)とは高比重リポタンパク質の略です。この2つの違いは、粒子を構成するコレステロールやタンパク質の量や大きさです。
LDL
LDLコレステロールは、リポタンパクの中で二番目に小さな粒子です。中にはコレステロールが50〜60%くらい含まれており、タンパク質は20%前後と少なめです。全身にコレステロールを運ぶ働きをしています。コレステロールは身体にとって欠かせない物質ですが、多すぎると動脈硬化を進行させてしまいます。このために、LDLコレステロールは「悪玉」コレステロールと呼ばれているのです。
HDL
それに対しHDLコレステロールは、5種類のリポタンパクの中で最も小さな粒子です。タンパク質の割合が50%前後と多く、コレステロールは約15〜20%と少ないため比重が大きいのが特徴です。HDLコレステロールはLDLコレステロールとは反対に、全身の各臓器や血管などで余ったコレステロールを引き抜いて回収し、肝臓に戻す働きがあります。これによって動脈硬化を予防する効果があるため、「善玉」コレステロールと呼ばれることもあります。そのほか血管内皮機能を改善したり、抗炎症作用、抗酸化作用など、身体に良いさまざまな働きを持っています。
LDLコレステロールの紹介
上でもご紹介した通り、LDLコレステロールは、肝臓で合成したり小腸で吸収したコレステロールを身体のあちこちに運ぶ働きをしています。適量であれば全く問題はないのですが、血液内にLDLコレステロールが余ってしまった場合、血管の壁に吸収され、溜まってしまいます。溜まったコレステロールの脂分が活性酸素などの影響で酸化すると過酸化脂質と呼ばれる物質となり、動脈硬化を強力に進行させるのです。
LDLコレステロールの基準値は、空腹時(食後10時間以上)に採取した血液中のLDLコレステロール値が140mg/dL未満です。LDLコレステロール値が140mg/dL以上となると、脂質異常症と診断されます。
HDLコレステロールとLDLコレステロールの標準比率は?
HDLコレステロールとLDLコレステロールの比率のことをLDL/HDL(L/H)比と言います。LDLコレステロールが高い場合、またHDLコレステロールが低い場合は動脈硬化が進みやすいことがわかっていますが、近年、LDLコレステロールが低めであってもHDLコレステロールが低い場合は、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞といった心血管イベントの発生率が高いことが報告されています。つまりLDLコレステロールとHDLコレステロールのバランスが重要であるということであり、そのバランスを把握するための指標がL/H比なのです。
L/H比は、LDLコレステロール値をHDLコレステロール値で割った値です。L/H比が高ければ高いほど、コレステロールのバランスが悪玉の方向に傾いており、動脈硬化が進みやすい状態であると言えます。L/H比が高ければ高いほど、血管の動脈硬化の度合いを示す平均プラーク占拠率が高い傾向にあり、特に2.5を超えると明らかにプラーク(血管についた脂肪などの塊)が多いという報告があることから、持病が特にない方の場合はL/H比を2.0以下に、すでに狭心症や心筋梗塞などをお持ちの方については1.5以下にするよう治療の目標を定めています。
高コレステロールと低コレステロールだとどんな症状がある?
コレステロールは、高くても低くても、それ自体に自覚症状はありません。LDLコレステロール高値やHDLコレステロール低値、すなわちL/H比が高い状態を放置することで動脈硬化が進行し、狭心症や心筋梗塞となった場合は胸の痛みや違和感などを感じることがあります。
LDLコレステロール値を下げるには?
LDLコレステロール値を下げるには、生活習慣を変えることから始めましょう。特に運動や食事による体重の管理、そして禁煙が有効であることがわかっています。
まず、体重およびBMI(体格指数)を確認しましょう。BMIが25以上の場合は体重を減らす必要があります。医学的には、 BMI22.0が最も脂質異常症にかかりにくいと言われています。体重を減らすためには、運動や食事のどちらかだけではなく、運動と食事の両方を管理することが極めて大切です。
体重を減らしLDLコレステロールを下げるための運動のコツは、「大きな筋肉を使う有酸素運動を1日30分以上」です。ウォーキングや早歩き、スロージョギング、サイクリングなど、手軽にできる運動で構いませんので、1日の合計で30分以上運動することを心がけましょう。興味がある場合は、水泳やエアロビクスなども良い選択肢となります。一度に30分の時間を取るのが難しい場合は、例えば10分間の運動を1日3回でも大丈夫です。通勤の際、駅までの10分間を早歩きに変えるだけでも、数ヶ月続けることができれば効果があります。毎日運動するのが難しい場合、せめて1週間に3回以上は実施するようにしましょう。
体重の管理には、食事の見直しも極めて有効です。総カロリーを抑えるとともに、バランスの良い食生活を心がけましょう。特に、動物性の脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸や化学的に合成されたトランス脂肪酸は、LDLコレステロールを血液中に溜めやすくする働きがあります。肉や加工食品、特に肉類の脂身や鶏皮、マーガリン、ラード、ココナッツミルク、揚げ物などの取りすぎにはくれぐれも注意してください。また、後ほどご紹介する「LDL-コレステロールを下げる食べ物」を積極的に摂りましょう。
禁煙は、 LDLコレステロールを直接下げるわけではありませんが、HDLコレステロールが上がることでL/H比を改善させます。また禁煙により、動脈硬化の進行やプラークの破綻に強く関係する酸化LDL複合体が減少することが知られており、動脈硬化に関係する病気を減らすことに大きくつながります。禁煙には、受動喫煙の防止も含まれます。本人がタバコを吸っていなくても、同居のご家族などが喫煙者の場合は禁煙をお願いすると良いでしょう。
LDLコレステロールを下げる食べ物
LDLコレステロールを下げる食べ物としては、青魚やオリーブオイル、豆腐や納豆などの大豆製品、が挙げられます。青魚に多く含まれる不飽和脂肪酸、特にオメガ3脂肪酸のうちDHA(ドコサヘキサエン酸)や EPA(エイコサペンタエン酸)、そしてオリーブオイルなどに含まれるオレイン酸などは、HDLコレステロールを増やすとともにLDLコレステロールを減らすことがわかっています。青魚が苦手な方や、手軽にDHAやEPAを摂取したい方にはフィッシュオイル(魚油)がお勧めです。
また豆腐や納豆など、大豆製品に含まれる大豆タンパクは、コレステロールの吸収を抑えることで、LDLコレステロールを下げる効果が期待されます。
さらに、野菜や海藻、きのこ類などに多く含まれる食物繊維には、コレステロールの原料となる脂質の吸収を穏やかにする働きがあります。
まとめ
以上、LDLコレステロールについて、そもそも血中脂質とは何か、LDLコレステロールの働きや基準値、LDLコレステロールとHDLコレステロールの違いや標準比率、高コレステロールや低コレステロールの症状をまとめるとともに、LDLコレステロールを下げるための生活習慣や下げる食べ物などについて解説しました。
LDLコレステロールが高いこと自体には自覚症状はありませんが、少しずつ確実に動脈硬化を進行させます。心筋梗塞など命に関わる病気となる前に、健康診断で脂質異常を指摘されたら必ず二次検診を受けましょう。また胸が苦しい、違和感があるなどの異常を感じたら、早めに病院を受診することをお勧めします。LDLコレステロールを少しでも下げるために、健康的な生活習慣を維持できるように、できることから少しずつ取り組みを始めていきましょう。