質の良い睡眠は、心身の健康に欠かせません。十分な睡眠を取ることが身体と心の疲れを解消し、日中のエネルギーや集中力を高めます。
しかし、現代社会ではストレスや不規則な生活習慣が原因で、質の良い睡眠を確保することが難しいと感じる人も多いです。
睡眠の質が低下すると、仕事や日常生活において集中力が欠如したり、心身に不調をきたすことがあります。そのため、睡眠の質を向上させるための食事を取り入れることは非常に重要です。
この記事では、管理栄養士が睡眠の質を上げるための栄養素と食材を解説し、食材を使用した1日のメニューを紹介します。
睡眠の重要性
睡眠は身体の疲労を回復し、精神的な安定をもたらします。睡眠の役割は、以下のとおりです。(1)
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免疫力の強化:十分な睡眠は免疫力を向上させ、感染症や病気に対する身体の防御力を強化します。
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ストレスの軽減:睡眠を取ることで、体内のコルチゾール(ストレスホルモン)の分泌が減少し、ストレス軽減が促進されます。
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心の安定:睡眠中にセロトニンが生成され、気分の安定と心のバランスが保たれます。
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記憶力の定着:睡眠は学習したことや経験を整理し、記憶として定着させる重要な役割を持っています。
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新陳代謝の調整:適切な睡眠はホルモンバランスを整え、新陳代謝の働きを正常に保ちます。
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ホルモン分泌の活性化:睡眠中に成長ホルモンが分泌され、細胞の修復や身体の成長、脂肪燃焼などが促進されます。
睡眠不足や質の悪い睡眠が続くと、免疫機能の低下や集中力の欠如、体調不良などを引き起こす可能性があります。
心の健康や認知機能にも影響を及ぼすため、日常生活において睡眠の質を上げるための工夫が必要です。
睡眠は免疫系や脳の働きに大きな影響を与えます。十分な睡眠を取ることは健康な身体を維持するために不可欠であり、質の良い睡眠は記憶力や学習能力にも良い影響を与えます。
適切な睡眠を取ることで心が安定し、ストレスへの耐性が強化されるため、日々の生活において睡眠の質を高めることは、自身の健康と幸福を増進するための重要な取り組みです。
睡眠の質を向上させるための食事の役割
睡眠の質は食生活に左右されます。特定の栄養素を含む食材を摂ることで、リラックスしたり、眠りに入りやすくするようになります。
神経の働きを調整しリラックス効果をもたらすマグネシウムや、メラトニンの生成を促すアミノ酸(トリプトファン)が効果的です。メラトニンは暗くなると分泌され、自然な眠りに入りやすくするホルモンです。(2)
食事に含まれる栄養素が、どのように睡眠に影響を与えるのかを知ることで、睡眠の質を良くする方法を理解できます。
例えば、マグネシウムは筋肉の緊張をほぐし、神経を落ち着かせる働きがあり、トリプトファンはメラトニンの前駆体で自然な眠りを促します。
栄養バランスの良い食事を心がけることが、質の良い睡眠の第一歩です。(3)
さらに、食事のタイミングや量も睡眠に大きな影響を与えます。夜遅くの重い食事は消化に負担がかかり、入眠を妨げる原因です。
一方で、軽めの夕食や適度なたんぱく質の摂取は、リラックスを促し、安定した睡眠を得るのに役立ちます。日常的な食事の見直しが、良質な睡眠につながることを意識しましょう。
睡眠に効果的な栄養素
睡眠の質を良くするには、特定の栄養素を食生活に取り入れることが大切です。良質な睡眠に関する栄養素は以下のとおりです。
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GABA(ガンマアミノ酪酸)
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セサミン
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マグネシウム
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トリプトファン
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グリシン
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オメガ3脂肪酸
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メラトニン
それぞれの効果を解説します。
1. GABA(ガンマアミノ酪酸)
GABAは神経伝達物質です。リラックス効果を持ち、心を落ち着ける働きがあります。
GABAが含まれる食品を摂取することで、ストレスを軽減したり、眠りやすさに促したりします。食品やサプリメントとして、1日50〜100mgが一般的です。(4)
GABAが多く含まれる食品:発酵食品(発芽玄米・納豆・キムチ・味噌など)・トマト・かぼちゃ・バナナ・メロン
2. セサミン
抗酸化作用があり、身体のリズムを整える栄養素です。肝臓の代謝を促し、疲労回復効果に期待できます。
セサミンを摂取することで、体内の炎症を抑え、全身の健康を保つことが可能です。サプリメントとして摂取する場合、1日あたりの目安量は5mgから20mgが推奨されています。(5)
セサミンが多く含まれる食品:黒ごま・ごま油
3. マグネシウム
マグネシウムは筋肉の緊張をほぐし、リラックスを促す栄養素です。神経系の働きを調整する効果に期待できます。
マグネシウムを適量摂取することで、神経の安定と深い睡眠を促進します。ストレスの反応が緩和され、心の落ち着きを保つのに欠かせません。成人の1日の推奨摂取量は約250〜400mgです。(6)
マグネシウムが多く含まれる食品:ナッツ類(アーモンド・カシューナッツなど)・ほうれん草・バナナ・牛乳・全粒穀物(玄米・オートミールなど)
4. トリプトファン
トリプトファンは身体に必要なアミノ酸で、幸せホルモンとも呼ばれるセロトニンを作る材料です。セロトニンは気分を安定させたり、リラックスさせたりする働きがあり、睡眠を促すメラトニンに変わります。
トリプトファンを多く含む食べ物を食べることで、リラックスした気分になり、質の良い睡眠が得られやすくなります。
トリプトファンが多く含まれる食品:鮭・マグロ・鶏むね肉・乳製品・卵・納豆・豆腐・バナナ
5. グリシン
グリシンは、深い睡眠をサポートするアミノ酸です。体温を下げて体をリラックスさせ、自然な入眠を促します。
グリシンを含む食品を摂取すると、スムーズに眠りにつきやすく、より質の高い深い睡眠に期待できます。体温を調節し、快適な睡眠環境作りに期待できる栄養素です。
グリシンは、1日あたりの目安摂取量の定めはありません。サプリメントとしては、1日3〜5gの摂取が推奨されています。
グリシンが多く含まれる食品:鮭・鶏むね肉・ゼラチン・牛乳
6. オメガ3脂肪酸
オメガ3系脂肪酸は、心臓血管系や脳神経系をサポートする栄養素です。
特にDHAとEPAは、睡眠ホルモンの生成に関与しています。オメガ3系脂肪酸を摂取することで、神経伝達が円滑になり、ストレスの軽減させ、眠りに入りやすくなります。
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、オメガ3系脂肪酸の摂取量は具体的には明記されていません。魚介類を週2回以上食べることが推奨されています。(7)(8)
オメガ3脂肪酸が多く含まれる食品:青魚・植物油・ナッツ類
7. メラトニン
メラトニンは、睡眠と覚醒のリズムを調整するホルモンです。体内で生成されるほか、食事から摂取できます。メラトニンを含む食品は入眠を助け、深い眠りを促進します。
メラトニンは体内時計を調整し、時差ぼけの改善にも効果的です。メラトニンの摂取により、スムーズに眠りやすくなり、睡眠の質が向上に期待できます。
メラトニンの摂取量の目安は、1〜5mgが推奨されます。(2)(9)
メラトニンが多く含まれる食品:さくらんぼ・ブドウ・トマト・ナッツ類
栄養素 |
含まれる食材 |
GABA |
発酵食品(発芽玄米・納豆・キムチ・味噌など)・トマト・かぼちゃ・バナナ・メロン |
セサミン |
黒ごま・ごま油 |
マグネシウム |
ナッツ類(アーモンド・カシューナッツなど)・ほうれん草・バナナ・牛乳・全粒穀物(玄米・オートミールなど) |
トリプトファン |
鮭・マグロ・鶏むね肉・乳製品・卵・納豆・豆腐・バナナ |
グリシン |
鮭・鶏むね肉・ゼラチン・牛乳 |
オメガ3脂肪酸 |
青魚・植物油・ナッツ類・海藻類 |
メラトニン |
さくらんぼ・ブドウ・トマト・ナッツ類 |
睡眠の質を上げる食材
睡眠の質を良くするために取り入れたい栄養素が含まれている食事を紹介します。以下の食材を普段の食生活に加えることで、より良い睡眠を得ることが可能です。
1. バナナ

バナナには、GABA、マグネシウム、トリプトファンなど、睡眠をサポートする栄養素が豊富に含まれています。これらの成分がリラックスを促し、心身を穏やかに整えることで、自然な眠りにつながります。
おすすめの食べ方: そのまま食べるほか、温めたミルクと一緒にバナナミルクにするのもおすすめです。
2. 納豆

納豆はGABAやトリプトファンなど、睡眠に関わる栄養素を複数含む発酵食品です。日常的に取り入れやすく、神経の安定や穏やかな入眠をサポートします。
おすすめの食べ方: ご飯にかけてそのまま食べたり、卵や野菜と合わせて納豆和えにするのも良いでしょう。
3. 鮭(さけ)

鮭には、トリプトファンやグリシン、良質なたんぱく質が含まれており、穏やかな眠りを促す食材のひとつです。体のリズムを整える働きも期待できます。
おすすめの食べ方: 焼き鮭やホイル蒸しにして、昼食や夕食のメインとして取り入れるのがおすすめです。
4. アーモンド

アーモンドにはマグネシウムやオメガ3脂肪酸、メラトニンが含まれており、心を落ち着かせて睡眠の質を高めるサポートが期待できます。
おすすめの食べ方: 就寝前の軽いスナックとして10粒程度を目安にそのまま食べるとよいでしょう。
5. 牛乳
牛乳はマグネシウムやグリシン、トリプトファンなどを含み、リラックスした状態をつくるのに役立ちます。寝る前の習慣に取り入れるのに適した飲み物です。
おすすめの飲み方: 温めてホットミルクにすると、体も心もリラックスできます。
6. さくらんぼ(チェリー)
さくらんぼにはメラトニンが含まれており、体内時計を整えて自然な眠りへと導きます。スムーズな入眠をサポートしたいときにぴったりです。
おすすめの食べ方: 生のまま食べるほか、ヨーグルトにトッピングするのもおすすめです。
7. 玄米
玄米はGABAやマグネシウム、全粒穀物としての食物繊維も含んでおり、神経を穏やかにしながら腹持ちも良い食材です。
おすすめの食べ方: 白米の代わりに玄米を主食として取り入れると、自然に継続しやすくなります。
8. トマト
トマトはGABAやメラトニンを含む野菜で、体内リズムを整え、睡眠をサポートします。加熱しても栄養が残りやすく、様々な料理に使いやすいのが特徴です。
おすすめの食べ方: トマトスープやトマト煮込みなどの温かい料理にして取り入れるのがおすすめです。
9. ほうれん草

ほうれん草はマグネシウムを含む緑黄色野菜で、心と体を落ち着かせるのに役立ちます。ビタミン類も豊富で、バランスの取れた睡眠サポートが期待できます。
おすすめの食べ方: おひたしや味噌汁の具として手軽に取り入れられます。
10. オートミール
オートミールはマグネシウムやGABAを含む全粒穀物で、血糖値の安定にも役立ち、夜間の覚醒を防ぐサポートが期待されます。
おすすめの食べ方: 牛乳や豆乳で煮て、ナッツやバナナを加えると、より睡眠をサポートする一品になります。
睡眠に良いメニューの提案

睡眠に必要な栄養素が含まれた食材を取り入れた1日のメニューを提案します。朝食にはたんぱく質や炭水化物をバランスよく取り入れることで、体内時計をリセットし、1日のリズムを整えます。
夜にはリラックス効果を持つ食材を摂取することで、自然に入眠しやすい環境を整え、体内のリズムを整えましょう。
メニューは以下のとおりです。
朝食
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オートミールとバナナのミルク煮:バナナに含まれるマグネシウムやトリプトファンがリラックスを促す。
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スクランブルエッグ:卵にはトリプトファンが豊富に含まれる。
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トマトサラダ:トマトはメラトニンを含み、体内のリズムを整える。
昼食
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玄米ご飯:GABAが含まれるため、心を落ち着ける効果が期待できる。
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鮭の塩焼き:鮭はトリプトファンやグリシンが含まれる。
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ほうれん草とごまの和え物:ほうれん草にはマグネシウムが含まれる。
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納豆味噌汁:納豆はGABAを含み、リラックスをサポートする。
夕食
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ご飯
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鶏むね肉のグリル:トリプトファンやグリシンが含まれ、リラックス効果に期待できる。
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ブロッコリーとカシューナッツの炒め物:カシューナッツにはマグネシウムが豊富に含まれる。
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具だくさん味噌汁:味噌には発酵食品としてGABAが含まれる。
おやつ
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さくらんぼ
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アーモンド
さくらんぼはメラトニン、アーモンドはマグネシウムを含み、自然な入眠に期待できます。
まとめ
良質な睡眠を得るためには、食材の選択に加えて、バランスの取れた食事を日常的に摂取することが大切です。
睡眠に良いとされる栄養素を意識的に取り入れ、健康的な食習慣を続けることで、より深い眠りを得ることが可能です。
質の良い睡眠は生活の質全体に影響を与えます。毎日の食事に少し意識を向け、必要な栄養素を積極的に取り入れることで、睡眠の質が大きく改善する可能性があります。
忙しい日々の中で、自分の体をいたわり、良質な眠りを得るために、食事を工夫してみましょう。小さな努力の積み重ねが、健やかな睡眠と健康な生活を導いてくれます。