中性脂肪はメタボリックシンドロームの判断基準の一つであり、健康にも大きく影響しています。高い中性脂肪は心血管系の疾患の発症リスクにつながるだけでなく、命にも関わる可能性があります。そのため、中性脂肪の摂りすぎには十分に注意する必要があるでしょう。しかし、中性脂肪をコントロールすることは決して難しいわけではありません。運動習慣をつける、食生活を見直す、定期的な健康診断に行くなどの対策をすることで、中性脂肪によるリスクの予防につながります。ぜひこれらの工夫を取り入れて、健康な体を手に入れましょう!
中性脂肪とは?
中性脂肪は「トリグリセリド」とも呼ばれ、栄養素の一つである脂質の一種です。人が摂取した脂質やタンパク質、炭水化物から生み出されるエネルギーのうち、消費できなかった分が中性脂肪へと変わります。余分な中性脂肪は予備のエネルギーとして、肝臓や脂肪細胞などに貯蔵されます。中性脂肪は体にとって欠かせないものであり、不足あるいは過剰になると悪影響が現れることも少なくありません。体のエネルギー源として使われている中性脂肪が不足すると、倦怠感を覚えるようになります。反対に、過剰になっている場合は内臓脂肪や皮下脂肪が増えるだけでなく、以下のような疾患を引き起こす可能性もあるでしょう。
-
肥満
-
脂肪肝
-
心血管疾患
中性脂肪の濃度は、採血によって測定が可能です。そのため、中性脂肪濃度は心血管疾患リスクを評価する指標の一つとしても用いられています(1)。
中性脂肪の基準値
中性脂肪の検査はコレステロールと一緒に行われ、具体的な基準値は以下の通りです(9)。
- 正常値:30-149 mg/dl
- 軽度異常:150-299 mg/dl
- 要再検査・生活改善:300-499 mg/dl
- 要精密検査・治療:29 mg/dl以下, 500 mg/dl以上
中性脂肪値を正常に測定するためには、一晩あるいは8〜12時間の絶食をしてもらう必要があります。中性脂肪の理想的な範囲は一般的に30~149mg/dlとされており、150〜199 mg/dlの場合は軽度異常となります。
150〜199 mg/dlの場合では特別目立った症状は現れませんが、心血管疾患のリスクやインスリン抵抗性が増加することも珍しくありません。そのため、この段階で中性脂肪値をこれ以上増やさないようにすることが重要です。中性脂肪の値が300-499 mg/dlの場合は要医療と判断され、心筋梗塞や糖尿病のリスクが増加し始めます。値が500 mg/dlを超えると、急性膵炎(2)(3)を発症する可能性が高くなります。急性膵炎は膵臓で引き起こされる疾患で、強い痛みを伴うだけでなく、命に関わる事態に陥るケースもあるでしょう。このように、中性脂肪が増加すると急性膵炎をはじめとした、さまざまな疾患の発症リスクが高まる恐れがあります。
中性脂肪値が高いときに現れる症状
先ほど解説したように、中性脂肪値が高くなってきた段階では明確な症状が現れることは少ないとされています。そのため、自覚症状がないまま経過するケースが多いでしょう。しかし、中性脂肪値が少しずつ高くなってくると体に変化が現れ、一部の方は皮下に小さい脂肪が隆起することもあります。これは黄色腫(xanthoma)と呼ばれ、背中や腕などの体のさまざまな部位に現れるのが特徴です。黄色腫自体に目立った症状はありませんが、心血管疾患や2型糖尿病の発症リスクの増加に関係しているとされています(4)。
また、正常な肝臓には重量の4〜5%程度の脂肪が含まれていますが、それ以上の割合を超えると「脂肪肝」と定義されます。脂肪肝の原因はさまざまで、脂肪の摂りすぎによって引き起こされる高脂血症がその代表例の一つです(5)。脂肪肝をそのまま放置すると、肝線維症や肝硬変などの重篤な肝疾患を発症する恐れもあります。
中性脂肪値が増える原因
中性脂肪値が増える原因は、以下の通りです。
-
過剰なアルコール摂取
-
過剰な炭水化物の摂取(糖分の多いジュース、デザート、ケーキ、パン、麺類など)
-
喫煙
-
疾患(糖尿病、甲状腺機能低下、腎臓病など)
-
薬物(ステロイド、β遮断薬、利尿剤、ホルモン製剤など)
-
遺伝(家族性高中性脂肪症)
このように、中性脂肪が増える原因には遺伝や薬物の使用に加えて、現代人の生活スタイルも密接に関係しています。これらの原因に心当たりがある方は、中性脂肪の摂りすぎには十分に気をつける必要があります。
中性脂肪異常の際に注意すべきこと
中性脂肪の異常、つまり高中性脂肪血症になった場合、最も注意すべきなのは心血管疾患です。血液が濃くなったり、動脈硬化の症状がみられたりすることもあれば、以下のような危険な疾患を発症する恐れもあります。
-
急性膵炎
-
心筋梗塞
-
脳卒中
このような疾患を合併した場合、突然死のリスクも大幅に高まるでしょう(6)。また、高中性脂肪血症が動脈硬化を引き起こす主な原因は、カイロミクロンです。カイロミクロンは血中の脂質を運搬する働きがあり、タンパク質の一種です。中性脂肪が豊富に含まれているカイロミクロンが、血管内壁に沈着することでアテローム性動脈硬化を引き起こし、血栓を形成します。動脈硬化になると血管が狭くなるので、血液を運ぶためにより大きな血圧が必要になります。血圧が高くなると血栓が流れやすくなり、血管を詰まらせることで脳卒中や心筋梗塞が引き起こされるのです。
このように、中性脂肪値が高くなると心血管疾患の発症リスクを高める原因となります。早期から高中性脂肪血症の発見や予防をして、健康維持に努めるためには、健康診断で中性脂肪値をよく確認しておくことが大切です(7)。
4つの中性脂肪の数値を下げる方法
中性脂肪は薬による使用だけでなく、生活習慣の面からもコントロールすることは十分に可能です。中性脂肪値を下げるおもな方法としては、以下の通りです。
-
運動によるダイエット
-
栄養管理
-
適度なアルコール摂取
-
健康な脂肪の摂取
1. 運動によるダイエット
1つ目の方法は、運動によるダイエットです。摂取するカロリーが過剰になると、中性脂肪が体に蓄積されて皮下脂肪や内臓脂肪として貯蔵されるようになります。体重が増加して肥満になると、さらに健康への悪影響をおよぼすでしょう。運動によってカロリーを消費し、適切な体重管理をすることで、中性脂肪のコントロールが可能です。有酸素運動や筋トレなどの運動習慣をつけて、脂肪燃焼に努めましょう。
2.栄養管理
2つ目の方法が、栄養管理をすることです。特に以下のような、糖分が多く含まれている食べ物は、なるべく控えるようにしましょう。
-
デザート
-
清涼飲料水
-
パン
-
パスタ
これらの炭水化物を多く含んでいる食べ物は、中性脂肪を作り出しやすく、内臓脂肪や皮下脂肪を蓄積させる原因となります。炭水化物を減らしつつ、タンパク質やミネラル、ビタミンなどのさまざまな栄養素をバランスよく取り入れることが大切です。
3.適度なアルコール摂取
3つ目が、適度なアルコール摂取です。日本酒やビールに含まれているアルコールは多くのカロリー・糖分が含まれており、中性脂肪が増加しやすくなります。そのため、アルコールの過剰摂取は病気の発症リスクを高める原因となるでしょう。飲酒を適量に留めることで、アルコールによる影響を最小限に抑えられるでしょう。1日あたりのお酒の目安としては、1日平均純アルコールで約20g程度で、つまりビール(5%)500ml缶1本、日本酒1合、チューハイ(7%)350ml缶1本です(10)。ただし、アルコールの適量はその方の体質や体格によっても異なるので、自身の状態にあわせて調整することが大切です。脂肪を余分につけないように、アルコールとうまく付き合っていきましょう。
4.健康な脂肪の摂取
4つ目は、健康な脂肪を摂取することです。脂肪にはさまざまな種類があり、大きく「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に分けられます。肉類に含まれている飽和脂肪は中性脂肪を増加させる原因となるので、摂り過ぎには注意する必要があります。一方で、不飽和脂肪酸にはコレステロールを下げる働きがあるとされています(8)。不飽和脂肪酸はオリーブオイルを含めた植物性脂肪や、サバやサーモンなどの魚に多く含まれているため、それらを積極的に摂取することがお勧めです。このように、脂肪といっても全てが体にとって悪影響というわけではありません。不飽和脂肪酸を摂り入れて健康的な体作りをはじめていきましょう。