糖尿病と運動の関係性
糖尿病はインスリンの働きが不十分であることが原因で、血中の血糖値が高くなってしまう病気です。インスリンには細胞に血糖を取り込み、血糖値を下げる働きがあるため、インスリンの分泌低下やインスリンの効きの低下(インスリン抵抗性)があると、血糖値が高くなる糖尿病になります。
運動不足や食べ過ぎにより肥満になると、インスリンが働きにくくなります。運動を行うと、筋肉が糖をエネルギーとして使用し、血糖値が下がりやすくなることが期待されています。運動をやめてしまうと血糖値が下がりやすくなる効果は失われてしまうため、継続して運動を行うことが重要です。(2)(3)
運動が糖尿病の方にもたらすメリット
適切な運動は、健康にとって欠かせない要素です。糖尿病の方にとっても、以下のような多くのメリットがあります。
骨と筋肉の強化
運動は骨と筋肉の強化に効果的です。糖尿病の方は、そうでない方と比べて骨折しやすいことが明らかになっており、運動により骨を強化することは重要だといえます。また、筋力トレーニングは筋力を増加させ糖の利用が促進するため、血糖コントロールに有効です。(4)(5)(6)
心疾患やがんのリスクの低減
糖尿病の方は、心筋梗塞、狭心症などの心疾患や脳梗塞を合併するリスクが高いことが知られているほか、がんとの関連性も報告されています。運動は、心血管疾患のリスク要因となる肥満や内臓脂肪の蓄積、インスリン抵抗性、脂質異常症、高血圧症、慢性炎症を改善する効果が期待できるとされています。また、肥満はがんのリスク要因でもあるため、運動はがん予防にもつながる可能性があると考えられています。(1)(7)
転倒やけがのリスクの減少
運動により筋肉や骨が強化され、バランス感覚や体を支える力が向上することで、転倒やけがのリスクも減少します。特に、高齢の糖尿病患者の方は、バランス能力を向上させるようなバランス運動(片足立位保持、ステップ練習、体感バランス運動など)が効果的です。(6)
インスリンの働きを高める
ウォーキングやサイクリングなどの有酸素運動を行うことで、インスリンの働きが高まり(インスリン抵抗性の改善)、血糖値が下がることが明らかになっています。これは運動によって使われた筋肉が糖をエネルギーとして利用するためです。また、継続的な運動により内臓脂肪が小さくなり、脂肪組織から産生されるインスリンの働きを妨害する物質の分泌が抑えられるため、筋肉や肝臓での糖の代謝が改善され、血糖値のコントロールを期待できます。(3)(6)
目標体重の達成と維持
運動を行うことでカロリーを消費し、肥満の改善や適正な体重を維持することができます。肥満は糖尿病になるリスク要因のため、体重を管理することは健康維持にとっても非常に重要です。
ストレス解消とリラックス効果
運動は筋肉の緊張をほぐし、心身をリラックスさせる効果があります。また、ストレスの解消にも役立ちます。ストレスは血糖値を上げる働きのあるホルモンの分泌を高めるため、ストレス解消に運動を取り入れることもおすすめです。(8)
糖尿病の方に効果的な運動!
糖尿病の方に効果的な運動をご紹介します。糖尿病を改善させる運動としては、有酸素運動とレジスタンス運動が推奨されています。(1)(3)(6)(9)
有酸素運動
有酸素運動は体の大きな筋肉を使って行う全身運動で、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳などがあります。
「ややきつい」、「楽である」と感じる程度の中等度の運動を、週に150分以上、週に3回以上行うことが推奨されています。ウォーキングの場合は、1回15〜30分間、1日2回、約10,000歩が適当です。運動による効果は3日程度で失われてしまうため、運動をしない日が2日間以上続かないように継続して運動するようにしましょう。運動をする時間がない方は、日常生活でなるべく階段を使うようするなどを意識するだけでも効果があります。
レジスタンス運動
レジスタンス運動は筋力を高めるための運動で、ダンベルやバーベルを使用したウエイトリフティング、腹筋、腕立て伏せ、スクワットなどがあります。胸や背中、下肢などの大きな筋肉をまんべんなく行うと、効果が高まります。
軽い負荷で10~15回を1セット、連続しない日程で休息日を設けながら、週に2~3回行うことが推奨されています。運動に慣れてきたら、「ややきつい」と感じる程度まで負荷を上げ、8~12回を1~3セットまで増やすことを検討してもよいでしょう。
有酸素運動とレジスタンス運動の組み合わせ
有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせた運動は、それぞれの単独の運動よりも効果的に糖尿病を改善できることが明らかになっています。有酸素運動に加えて、筋力トレーニングなどを行うのがおすすめです。水中運動は有酸素運動とレジスタンス運動の両方が行える運動で、膝への負担も少なく安全で効果的であるため、肥満糖尿病の方におすすめです。
糖尿病の方が運動をする際に気をつけるポイント
運動前の準備
運動をはじめる前には必ず医師に相談し、自分の体力や年齢、体重、健康状態に合った運動プランを立てるようにしましょう。糖尿病の状態が悪い方や高齢の方が強度の高い筋力トレーニングなどを行うと、血管や心臓に負担がかかる可能性があります。とくに合併症がある方は注意が必要なので、医師の指示に従うようにしてください。
運動前、運動中および運動後の血糖値の測定を行い、低血糖や高血糖のリスクを確認することも重要です。空腹時の運動は低血糖になる可能性があるので、運動前の血糖値が低い場合は補食をしましょう。また、運動前には5分程度の準備運動を行うようにしましょう。(1)(3)
運動中に気をつけること
運動中はこまめに水分補給を行い、脱水にならないように注意しましょう。適度な休息をはさみ、無理のない範囲で運動するようにしてください。冷汗やめまい、脱力感などの症状が現れた場合は、すぐに運動を中止しましょう。
運動後に気を付けること
運動後は血糖値を測定し、低血糖や高血糖のリスクがないかを確認します。運動後はストレッチなどを行い、筋肉をほぐすようにしましょう。
まとめ
運動は、糖尿の方にとって血糖値のコントロールや健康維持に効果的で、運動療法として治療に取り入れられています。運動をするまとまった時間が取れない方は、日常生活で早歩きをしたり、階段を使ったりするなどして、活動量を増やすことからはじめてみるのもよいでしょう。無理をせず、ご自身に合った運動を取り入れてみてください。糖尿病の症状や治療によっては、運動を制限しなければならない場合もあるため、運動をはじめる前には必ず主治医に相談するようにしましょう。