食後低血圧は、食事をした後に血圧が過度に低下する状態をいいます。主な症状はめまいやふらつきですが、場合によっては強い立ちくらみや失神を起こすこともあります。特に高齢者では、そのまま転倒して骨折する場合もあり、けっして軽視できない病気です。血圧が高い人や、自律神経系を制御する部分に異常がある疾患をもつと発症しやすいと考えられています。自律神経系の調節機能が低下する65歳以上の高齢者では、3人に1人が食後低血圧を発症するとされています(1)。
一方で、若年者では食後低血圧はほとんどみられません。若年者は血管の弾力性が高い上に、自律神経系の機能が低下していないためと考えられています。
症状は食後しばらくしたら自然に改善するため、食後低血圧だという自覚がないこともあります。しかし食後低血圧は、近年では脳卒中や心筋梗塞のリスクになることも指摘されており(2)、注意が必要です。この記事では、食後高血圧の原因や予防方法について解説します。
「食後低血圧」とは?
食後低血圧とは、名前のとおり食事の後に急激に血圧が低下する状態です。食後1~2時間の間に収縮期血圧が20mmHg以上低下します。
腸が食物を消化するには大量の血液が必要です。食事をするとニューロテンシンなどの腸管ペプチドという消化管ホルモンの一種が分泌され、腸への血流を増やし、大量の血液が腸に集まります(3)。すると体の血液量が減るため、自律神経系の一つである交感神経が作動して心拍数を上げ、血管を収縮させることで血圧を維持します。
加齢や病気で自律神経系の働きが弱まると、食後の血圧を維持するための働きがうまく作用しなくなります。その結果血圧を保てなくなり、急激な血圧低下が起こりやすくなります。
食後低血圧を疑う場合は、食前と食後に血圧を測りましょう。食後の収縮期血圧が食前と比較して20mmHg以上低下した場合、食後低血圧の可能性があります。血圧はさまざまな要因で変動するため、数日間にわたって測定を行い、血圧を確認することが必要です。
食後低血圧の原因
食後は腸への血流が増えるため、交感神経が作用し血圧を維持します。しかしこれがうまく調節できない場合に食後低血圧が起こります。主に以下のような原因があります。
炭水化物の摂取
食事中の炭水化物(ブドウ糖、でんぷん、アルコール)が多いと、食後低血圧の頻度が増え、重症度も増えることが知られています(4)。炭水化物はインスリン分泌を誘発し、血圧降下を起こすためと考えられています。
自律神経調節障害
パーキンソン病、多系統萎縮症、アルツハイマー病、脳血管障害などの自律神経系の障害を起こす神経疾患がある場合も食後低血圧を起こします。これは、自律神経調節障害のため血管収縮が十分起こらず、食後に起こる血流変化を補うことができないことが理由です。
糖尿病は進行すると神経系に影響をおよぼし自律神経調節障害が起こり、食後低血圧を発症します。
加齢
高齢になると血圧の調整機能が落ち血管収縮能が低下するため、食後の低血圧が増えます。
高齢者は食後低血圧を起こしやすく、高度に血圧が低下した場合は意識障害を発症することもあります。ふらつきや意識障害を起こすとそのまま転倒し、骨折を起こしやすいため注意が必要です(5)。
食後低血圧の症状
めまい、ふらつき
血圧が低下することで、めまいやふらつきが起こります。食後30分~1時間程度で起こりやすく、特に立ち上がったり歩いたりするときに症状が強くなります。時間が経つと血圧が元に戻るため、なんとなく変だなと思っても、それが食後低血圧による症状だと気が付かないこともあります。
頭痛
血圧が低下することで脳への血流が一時的に減少すると、頭痛を起こします。
失神
血圧の下がりが強く脳への血流が低下すると、強い立ちくらみを起こします。特に、急に立ち上がると、脳への血流が急に低下します。そのまま失神することもあります。
転倒
低血圧によるふらつきがきっかけで転倒し、骨折などの大怪我につながることがあります。特に高齢者の場合は転倒しやすい上、骨密度が低下していることで骨折リスクが高いため注意が必要です。
眠気
血圧が低下し、脳への血流が低下することで、脳に十分な酸素が運べず眠気を起こすことがあります。酸素を多く取り込もうとし、あくびが出ることもあります。食後の眠気は食後低血圧が原因かもしれません。
食後に血圧が下がるのを防ぐには
食後低血圧は以下のような方法で予防することが可能です。症状がある場合は、実践して予防しましょう。
食べ過ぎない
食事摂取量が多いと、消化をするために大量の血液が腸に流れ、全身の血液量が減少することで食後低血圧を起こしやすくなります。特に、炭水化物を多く摂取すると食後低血圧を起こしやすくなります(6)。食べ過ぎを避け、少量の炭水化物を頻回に摂取することが有効とされています。
ゆっくり食べる
早く食べると急に腸に食べ物が入ります。すると迷走神経が刺激され、腸管ペプチドが大量に放出されることで血液が急に腸に集まりやすくなり、食後低血圧を起こしやすくなります。ゆっくり時間をかけて、少量ずつ食べるようにしましょう。
食後に休息をとる
座っていると頭が心臓より上にあるため、血圧が下がると容易に脳への血流が低下します。そのため食後に横になることで、血圧低下を防ぐことができます。食後低血圧の可能性がある場合は、食後1時間以上ゆっくり休みましょう。
食直後の入浴を控える
入浴は体温が上がり、血管が拡張しやすくなります。血管が拡張すると低血圧を起こしやすい状態になるため、食事を取った後は1時間以上ゆっくり休みましょう。
カフェインを摂取する
カフェインは血管収縮効果があり、低血圧を予防する効果があります(7)。コーヒーや緑茶、紅茶などを食前や食後に飲むことが有効です。ただしカフェインは不眠の原因になる可能性があり、飲み過ぎに注意しましょう。
水分補給
脱水は血圧を下げる一因です。食事の前に水分摂取すると、血流量が増えることで食後の低血圧を緩和させる可能性があります。
運動
筋ポンプ作用で下半身の静脈血を還流させるのも大切です。血液の循環が悪いと血液が心臓にうまく戻らないため、血圧は上がりにくくなります。特に下肢の筋力が重要です。ウォーキングや階段昇降などで下肢の筋肉を鍛えることが予防に重要です。
以上のような対症療法を行っても症状が改善せず続く場合は、医療機関を受診し相談するようにしてください。
食後低血圧の治し方
食後低血圧は以下のような方法で治すことができる可能性があります。
食生活や生活習慣の見直し
食後低血圧は食事の見直しや生活習慣の改善で予防することが可能です。炭水化物を食べすぎない、食事をゆっくり食べるなど、日々の食事摂取方法を見直しましょう。
病気の治療
自律神経系が乱れると、食事によって血液が胃や腸に集中したときに交感神経がうまく働かず血圧を上げることができず、食後低血圧になります。
糖尿病患者は自律神経系の機能障害を起こし、これが食後低血圧になる原因と考えられています。食前の収縮期血圧が高いこと、高齢、糖尿病のマーカーであるHbA1cが高いことなどがリスク因子とされています(8)。
パーキンソン病などの神経疾患も、自律神経機能障害により食後低血圧を起こしやすくなります(9)。
糖尿病やパーキンソン病などの病気が原因となっている場合は、その治療を行うことで症状が改善する可能性があります。
薬の調整
過度の降圧剤や利尿剤などの薬が原因の場合は、薬の調整が必要かもしれません。降圧剤や利尿剤の量を減らすことで症状緩和が期待できます。ただし、自己判断で薬を中止するのは大変危険ですので、必ず医師に相談をしてください。
食後低血圧はしばらくすると症状がおさまってしまうので、あまり気にせず過ごしている方も多いかもしれません。しかし食後低血圧は脳卒中や心筋梗塞を起こす可能性も指摘されているため、軽視はできません。特に、失神、ふらつきを起こしている場合は危険な場合があります。食後低血圧を疑う症状がある場合は、自己判断せずに医師に相談しましょう。
まとめ
食後低血圧の症状や予防法について解説しました。食後低血圧は、食後に胃や腸に血流が集まることで食後に血圧が下がり、めまいやふらつきが起こります。また、高齢者に多い症状で、転倒すると骨折など重症になる場合があるため、食後の血圧の変化に十分注意が必要です。
脳卒中や心筋梗塞のリスクにもなりうるため、自宅でできる対処法を行っても改善しない場合は、医療機関を受診し医師に相談しましょう。