しかし、妊娠中だけでなく、男女問わず成長期のお子さんや中高年世代の方にもうれしい効果を秘めているんです。葉酸の効率的な摂取方法も紹介するので、積極的に摂取して健康度をパワーアップさせましょう。
葉酸とは?
葉酸は、水に溶けやすい性質を持つビタミンB群の一種です。ほうれん草から発見されたため、「葉酸」の名がついたとされています(1)。
葉酸の働き
葉酸は「造血のビタミン」と呼ばれ、ビタミンB12とともに赤血球の産生をサポートする働きがあります。代謝にも関わり、DNAやRNAといった核酸やタンパク質の生合成を促して、細胞の再生や産生を助けるため「健全な成長」にも欠かせません(2)。
葉酸の吸収
食品中にある葉酸のほとんどは、ポリグルタミン酸型という形で存在していますが、そのままでは吸収できません。調理や消化の過程でモノグルタミン酸型に変換されてから小腸から吸収されます。細胞に入ると再びポリグルタミン酸型となり、酵素のはたらきを補助する成分(補酵素)として体内で働くのです。
食品から摂取した葉酸は、モノグルタミン酸として消化吸収されるまでの代謝の過程であらゆる影響を受けるため、消化吸収率は4割程度とされています(3)(4)。
一方で、サプリメントなどの栄養補助食品に使用される合成型の葉酸は、通常の食品に含まれる葉酸に比べて吸収性に優れており、生体内で効率良く利用されるのです。
葉酸の5つの健康効果
葉酸は「妊娠期に必要な栄養素」のイメージが強いですが、妊婦に限らず出産予定のない女性や男性・成長期のお子さん・中高年の方に対しても多くの健康効果が期待できます。
葉酸の効果1:胎児の健康な発育
葉酸は、細胞の分裂や成熟に必要なため「胎児の健全な発育」に欠かせません。とくに、妊娠初期は胎児の細胞増殖が活発であり、脳の成長過程で最初につくられる神経管が形成される重要な時期です。
妊娠初期に葉酸が不足すると、胎児の先天異常である神経管閉鎖障害を引き起こすリスクが高くなります。神経管閉鎖障害とは、脳の形成異常がみられる“無脳症”や、脊椎が皮膚の外に飛び出す“二分脊椎”といった命を落とす危険性が高い病気です(5)。日本では1万人のうち6人の割合で発症していますが、葉酸の摂取により発症リスクを減らせます(6)。
神経管閉鎖障害を予防するために、妊娠希望の女性や妊娠初期の妊婦は、食事のほかにサプリメントや栄養補助食品から400㎍/日の葉酸摂取が推奨されているのです(7)。
葉酸の効果2:脳の健康を守る
葉酸は「脳の健康維持にも重要」であることが明らかになっており、認知機能や脳卒中の予防効果が期待できます。
認知症の予防効果:葉酸は脳神経を保護する働きがあり、認知症予防に欠かせません。認知症患者さんの食事は、ごはんやパンといった炭水化物に偏っており、葉酸の摂取源となる野菜やタンパク質食品が不足しているケースが多いとの報告があります(8)。
高血圧や脳卒中の予防効果:葉酸は、高血圧や脳卒中の予防効果もあります。脳卒中は、脳の血管が詰まったり破れたりして、脳の一部の働きが悪くなり、ある日突然身体の働きが悪くなる恐ろしい病気です。
脳卒中を招く原因の1つに高血圧があります(9)。高血圧の患者さんに、降圧剤と葉酸サプリメントを併用したところ、降圧剤のみ服用した患者さんに比べて脳卒中になるリスクが21%も低減したとの研究結果があるのです(10)。
葉酸の効果3:メンタルの健康を守る
葉酸は「メンタルの健康維持」に重要です。葉酸不足はうつ病発症リスクを高めると報告されています。血中葉酸値が低い割合について、健康な人では10人に1人でしたが、うつ病患者は4人に1人との結果でした。
葉酸の投与によるうつ病の改善例もあります。落ち込みやすい・不安を抱えやすい・ストレスを感じやすいなどメンタルが不安定になりやすい方は、葉酸を積極的に摂るとよいでしょう(11)。
葉酸の効果4:貧血・動脈硬化の予防
葉酸は「貧血・動脈硬化の予防」にも役立ちます。
貧血の予防効果:葉酸(やビタミンB12)は、赤血球の細胞骨格を維持するのに不可欠であり、欠乏すると新たに血液を作り出せないため、巨血芽球性貧血を招きます。症状としては、息切れや動悸・疲労感といった貧血症状が代表的です。
巨血芽球性貧血は、ビタミンB12欠乏による発症が大半であり、葉酸欠乏による発症は多くはありません。偏食による葉酸の摂取不足だけでなく、アルコール依存症・消化器疾患による吸収不良・薬剤投与の影響で葉酸が欠乏して発症するケースもあります(12)。
お酒をよく飲む方や消化器疾患をお持ちの方・服用中の薬がある方は、葉酸不足に注意しましょう。
動脈硬化の予防効果:葉酸は、動脈硬化の予防に効果的です。動脈硬化になる一因には、血中のホモシステイン(アミノ酸の一種)の濃度が高くなることがあげられます。
葉酸を1日400㎍摂取すると、ホモシステインの血中濃度を低下させて動脈硬化を予防する効果が確認されているのです。
動脈硬化が進行して脳血管が詰まると、脳細胞が壊死して脳梗塞を招きます。血液中のホモシステインが5㎍/dlから10㎍/dlに増加すると、約5倍も脳梗塞の発症リスクが高まるので、脳梗塞予防のためにも葉酸を積極的に補給しましょう(4)。
葉酸の効果5:妊婦の健康を守る
妊娠中は、妊娠していないときよりも身体に負担がかかるため、メンタルの乱れや貧血・体調不良を招きやすく、健康管理に注意が必要です(13)。
妊娠時に高血圧になる妊娠高血圧症候群は、妊婦の20人に1人の割合で発症します。重症化すると、けいれん発作や脳出血・腎臓や肝臓の機能障害などを招き、最悪の場合、胎児が亡くなる危険性もある軽視できない病気です(14)。
前述のとおり、葉酸は「メンタルの安定」「貧血予防」「高血圧の予防」の効果が期待できるため、妊婦の健康維持に役立ちます。
葉酸の1日の摂取推奨量は?
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」による18歳以上の葉酸の推奨量は、男女ともに240㎍/日です。妊娠中期~後期の妊婦は、さらに240㎍/日の付加量が設定されています。推奨量は、通常の食品からの葉酸摂取を前提に設定されており、推奨量を満たすにはバランスの良い食生活が重要です(15)。
先ほどもお伝えしましたが、妊娠の可能性がある女性や妊娠初期の妊婦は、胎児の神経管閉鎖障害リスク低減のためにサプリメントの活用が薦められています。
葉酸の有効性は、サプリメントなど合成型の葉酸を用いて実証された研究が大半です。一方で、通常の食品に含まれる葉酸の有効性は、十分な科学的根拠が揃っていません。
そのため、妊娠する1ヵ月以上前から妊娠3ヵ月までは、通常の食事からの葉酸摂取に加えて、サプリメントや栄養補助食品から1日400㎍の葉酸摂取をするよう推奨されているのです(3)。
葉酸サプリメントの選び方と注意点
葉酸は、脳の健康・メンタルヘルス・貧血や動脈硬化の予防といった多様な効果があるため、妊婦だけでなく、男女問わず積極的に摂りたい栄養素です。効率良く葉酸を補給したい場合は、生体利用率の高いサプリメントを活用するとよいでしょう。
葉酸サプリメントの選び方
葉酸サプリメントを選ぶ際は、下記の3つを確認しましょう。
(1)葉酸の含有量が400㎍以上か?
厚生労働省が妊婦に対して通達している1日の葉酸摂取推奨量は「食事から240㎍+サプリメントや栄養補助食品で400㎍」です(3)。
また、400㎍の葉酸強化により動脈硬化の予防効果が得られるとの報告もあるので、1日あたり400㎍摂取ができるサプリメントなのかを確認しましょう(4)
(2)添加物が少ないか?
サプリメントは、健康のために摂るので、代謝に負担をかける添加物や保存料はできるだけ避けたいものです。できるだけ不要な成分が少ない製品を選びましょう。
(3)信頼できるメーカーか?
レビューや口コミを参考にして、信頼できるメーカーの商品を選びましょう。品質管理をしっかりしているかも重要なポイントです。
葉酸サプリメントを活用する際の注意点
通常の食品は、前述のとおり生体利用率が高くないので、過剰摂取による健康被害の心配はありません。しかし、生体利用率の高いサプリメントや栄養補助食品を活用する場合は、注意が必要です。
万が一、ビタミンB12不足により虚血芽球性貧血を患っていたとしても、サプリメントで葉酸を過剰に摂取してしまうと、検査データから疾病の発生を読み取れない恐れがあります。
サプリメントや栄養補助食品を活用する際は、下記の耐容上限量を超えないように気を付けましょう(3)。
<葉酸の1日の耐容上限量(男女共通)>
- 18~29歳:900㎍
- 30~64歳:1000㎍
- 65歳以上:900㎍
参照:(15)
葉酸が豊富な食品は?摂取のコツ
食事で葉酸を効率的に摂取するコツも押さえておきましょう。
葉酸が豊富な食品
葉酸は、ほうれん草から発見されたため名前に「葉」がついていますが、植物性食品だけでなく、動物性食品にも豊富に含まれています(1)。
<葉酸の豊富な食品>
- 海藻(焼きのり・わかめ・昆布)
- レバー(鶏・牛・豚)
- 緑黄色野菜(ほうれん草・ブロッコリー)
- 卵
- 大豆製品(きなこ・納豆・蒸し大豆)
- チーズ
- お茶(玉露・煎茶) など
参照:(2)
葉酸を効率良く摂取するポイント
上記の葉酸が豊富な食品は、バナナやオレンジジュースと同時に摂らないようにしましょう。食品に含まれる葉酸(ポリグルタミン酸型)を吸収可能な形(モノグルタミン酸型)に変換する酵素の働きを阻害する物質を含んでいるため、葉酸の吸収を妨げてしまうためです。
また、葉酸は水に溶けやすく、光や熱に弱いので、調理の過程で損失してしまいます。保存の際は、新聞紙で包んで光に当たらないようにしたり、早めに使いましょう。
調理が不要な焼きのり・納豆・チーズなどは、そのまま食べるのがおすすめです。
調理が必要な場合は、水さらしは最小限にしたり、なるべく短時間の加熱に留めたりすると損失を抑えられます、茹で汁はスープにするとよいでしょう(2)。
まとめ
葉酸は「造血のビタミン」と呼ばれ、ビタミンB12とともに赤血球の産生をサポートしたり、細胞の再生や産生を助けたりして健全な成長・健康維持に欠かせない栄養素です。
不足すると、メンタルの不安定・高血圧・動脈硬化・認知機能低下・貧血といった悪影響があり、妊婦の場合は、胎児の神経管閉鎖障害のリスクが上がります。
今回ご紹介した葉酸の効果は、サプリメントを使用して実証された報告がほとんどです。通常の食品からの葉酸摂取ももちろん大切ですが、調理過程で損失しやすいうえに、4割ほどしか消化吸収されません。葉酸の効果を期待する場合は、サプリメントを活用するとよいでしょう。