栄養素 - 脂質

不飽和脂肪酸とは?働き、健康効果と知るべきことについて医師が解説

監修者 錦 惠那 医師 公開日:2024-07-07 最終更新日:2024-07-10

栄養素 - 脂質

不飽和脂肪酸とは?働き、健康効果と知るべきことについて医師が解説

監修者錦 惠那 医師 公開日:2024-07-07 最終更新日:2024-07-10

脂質は栄養素の一つであり、脂質を構成する重要な要素である脂肪酸は分子構造から飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられます。飽和脂肪酸は主に動物性脂肪(肉や乳製品)に多く含まれ、血中のコレステロールを上げる脂質として知られていますが、不飽和脂肪酸は植物油(オリーブ油、大豆油など)に多く含まれており、血中のコレステロールを下げる脂質として知られています。

 

不飽和脂肪酸は植物油(オリーブ油、大豆など)や魚、一部のナッツなどに多く含まれており、一般的に常温で液体の状態で存在していることが多いのが特徴です。また、不飽和脂肪酸はLDLコレステロールを低下させる働きがあり、このため、心血管疾患のリスク低下や炎症の抑制などに寄与する可能性があり、健康に良いと言われています。

 

不飽和脂肪酸とは

不飽和脂肪酸の定義

脂肪酸はカルボキシル基(COOH)を持つ炭化水素類(つまり、カルボキシル基+炭化水素基)のことで、不飽和脂肪酸は、炭素鎖中に一つ以上の二重結合を持つ脂肪酸のことを指します。一般的には、二重結合の位置と数によって異なる種類が存在します。二重結合があるため、炭素鎖が直線的でなくなり、分子が曲がったり折れ曲がったりすることがあり、化学的および物理的に異なる性質を持ちます。

 

不飽和脂肪酸と必須脂肪酸の関係

不飽和脂肪酸のうち、一部の種類は体内で合成することができますが、特に多価不飽和脂肪酸(オメガ-3脂肪酸のEPAやDHA)は十分な量を体内で合成することが難しく、これらは必須脂肪酸と呼ばれています。これらの脂肪酸は食事から積極的に摂取することが必要です。

 

不飽和脂肪酸の種類は

不飽和脂肪酸は「カルボキシル基+炭化水素基」の炭化水素基中の一部の炭素同士が二重結合をしている状態の脂肪酸ですが、上記でもご説明しました様に、二重結合の位置、個数などによって分類されます。

不飽和脂肪酸の種類:

  • 一価不飽和脂肪酸:二重結合を1つだけ持つもの。
  • 多価不飽和脂肪酸:二重結合を2つ以上持つもの。
    • 鎖のどの位置に二重結合があるかによって、多価不飽和脂肪酸にはオメガ-3脂肪酸オメガ-6脂肪酸があり、これらは必須脂肪酸と呼ばれ、体内で産生されない(産生されにくい)ため意識して積極的に取り入れる必要があります。
 

各種類の不飽和脂肪酸の特徴と健康効果

それぞれの不飽和脂肪酸の代表的なものについて、特徴と健康効果を解説していきます。一価不飽和脂肪酸の健康効果
 

一価不飽和脂肪酸の健康効果

一価不飽和脂肪酸は二重結合のある位置によりオメガ9脂肪酸とも呼ばれています。悪玉コレステロールを増やさず、善玉コレステロールを減少させず、かつ血中中性脂肪を増やさない性質があります。代表的なものにはオリーブオイルがあり、加熱にも比較的安定しており、酸化もされにくいとされています。

 

多価不飽和脂肪酸の健康効果

二重結合の位置により分けられますが、特にオメガ-3脂肪酸、オメガ-6脂肪酸は心臓や血管、免疫や神経系を始めとした様々な分野で健康保持のために重要で良い作用を及ぼします。

 

オメガ3脂肪酸の健康効果

オメガ-3脂肪酸の代表的なものとしては、α-リノレン酸、EPA(エイコサペンタエ酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)があります。

  • α-リノレン酸:18個の炭素原子を持つ長鎖脂肪酸です。体内でエネルギーとなりやすく、場合よってEPAやDHAに変換されることがあります。主に植物油、特に亜麻仁油に豊富に含まれています。(1)

  • EPA:20個の炭素原子を持つ長鎖脂肪酸で、主に青魚(サーモン、マグロ、サバなど)を摂取することで得られます。抗血栓作用や血中トリグリセリド濃度の低下や動脈硬化の進行抑制が報告されています。(1)

  • DHA:22個の炭素原子を持つ長鎖脂肪酸で、EPA同様主に青魚などから得ることができます。抗血栓作用の他、DHAは脳の神経細胞の構成要素の一部であることから、脳の発達や機能維持に重要です。(1)
     

オメガ6脂肪酸の健康効果

オメガ-6脂肪酸の代表的なものとしては、リノール酸、アラキドン酸があります。

  • リノール酸:植物油に多く含まれており、最初に発見された必須脂肪酸です。皮膚や傷の治りを助け、血中の総コレステロール濃度を低下させることが報告されています。また、海外の試験ではリノール酸を多く含む食事を摂取すると、虚血性心疾患の発生率が低下することが報告されています。1)

  • アラキドン酸は肉類や動物性の食品に多く含まれています。アラキドン酸には胃粘膜保護作用や脂肪肝予防作用が報告されており、研究段階ではありますが、神経運動や精神の発達に重要な影響を及ぼします。(1)

 

α-リノレン酸、EPA、DHA、リノール酸、アラキドン酸は、必須脂肪酸と呼ばれ、体内で合成されにくいため、食物から摂取しなければなりません。

 

不飽和脂肪酸の働きと役割

飽和脂肪酸に比べると健康効果が大きい不飽和脂肪酸には、動脈硬化や高血圧の予防、LDLコレステロールの抑制など、様々な効果を期待することができます。(1)

 

一価不飽和脂肪酸

代表的なもの:オレイン酸
  • 効果:LDLコレステロール上昇防止、血液をサラサラにする、美肌効果
 

多価不飽和脂肪酸:オメガ3脂肪酸

代表的なもの:α-リノレン酸、EPA、DHA

オメガ3脂肪酸効果

  • α-リノレン酸:血中脂質低下、抗不整脈効果、,抗肥満作用、アレルギー予防効果1)
  • EPA・DHA:血液をサラサラにする、血中脂質低下、 脳卒中予防作用、抗アレルギー作用(1)

 

多価不飽和脂肪酸:オメガ6脂肪酸

代表的なもの:リノール酸、アラキドン酸

オメガ6脂肪酸効果

  • リノール酸:血中総コレステロール濃度の低下、虚血性心疾患発生率の低下(1)
  • アラキドン酸:胃粘膜保護作用8)、脂肪肝予防作用9)、神経運動や精神の発達(10)

 

不飽和脂肪酸を多く含む食品

一価不飽和脂肪酸や多価不飽和脂肪酸を多く含む食品をご紹介します。不飽和脂肪酸の含有量もあわせて記載しているので参考にしてみてください。

 

一価不飽和脂肪酸を多く含む食品

  • オリーブ油(不飽和脂肪酸含有量:100g中74.04g)

  • なたね油(不飽和脂肪酸含有量:100g中60.09g)

 

オメガ3脂肪酸を多く含む食品

  • えごま油(不飽和脂肪酸含有量:100g中58.31g)

  • アマ二油(不飽和脂肪酸含有量:100g中56.63g)

  • 生まぐろ脂身(不飽和脂肪酸含有量:100g中6.77g)

 

オメガ6脂肪酸を多く含む食品

  • ひまわり油(不飽和脂肪酸含有量:100g中57.51g)

  • イワシ類の缶詰・油漬け(不飽和脂肪酸含有量:100g中11.45g)

  • マグロ類の缶詰・油漬けフレーク(不飽和脂肪酸含有量:100g中11.8g)

 

不飽和脂肪酸をとりすぎる影響は?

脂質を摂取する際には、脂質である不飽和脂肪酸を積極的に取り入れることが重要であることはご理解頂けたと思いますが、実は、不飽和脂肪酸も摂り過ぎることは良くありません。

不飽和脂肪酸は構造的に二重構造の数や場所によって分類されますが、二重結合の両端の炭素結合が同じ向きにあるものは「シス型」、反対向きにあるものは「トランス型(トランス脂肪酸)」と呼ばれています。(16)

天然の不飽和脂肪酸のほとんどは「シス型」ですが、液状の油から固体の油脂を製造する加工技術である「水素添加」の過程で「トランス脂肪酸」が生成されます。

マーガリン、ファットスプレッド、ショートニ ングや、それらを原材料に使ったパン、洋菓子、 揚げ物などに「トランス脂肪酸」が多く含まれています。 「トランス脂肪酸」は LDLコレステロール値を上昇、HDLコレステロール値を低下させ、冠動脈疾患を増やすことが報告されています。(11)

したがって、トランス脂肪酸を多く含む食品の摂取には注意が必要です。

 

不飽和脂肪酸の摂取目安

食事中の脂質は多すぎても少なすぎても健康へ影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。厚生労働省により摂取目安が設定されており、これを参考にされると良いと思います。(13)(14)

 

オメガ-3脂肪酸

男性

  • 19ー49歳2g/日

  • 50ー74歳2.2g/日

  • 75歳以上2.1g/日

 

女性

  • 18ー49歳1.6g/日

  • 50ー64歳1.9g/日

  • 65ー74歳2.0g/日

  • 75歳以上1.8g/日

※妊婦1.6g/日、授乳婦1.8g/日

 

オメガ-6脂肪酸

男性

  • 19ー29歳11g/日

  • 30ー64歳10g/日

  • 65ー74歳9g/日

  • 75歳以上8g/日

 

女性

  • 18ー74歳8g/日

  • 75歳以上7g/日

  • ※妊婦9g/日、授乳婦10g/日

     

まとめ

脂質は細胞膜の成分であり、私たちの健康維持には必要不可欠な栄養素の一つです。特に不飽和脂肪酸は血中LDLコレステロールを下げる作用など健康効果が大きく、積極的に取り入れたい栄養素です。しかし、摂取しすぎるとかえって健康を害することもあるので、推奨された摂取量を守り、その他の栄養素もバランスよく取り入れることが重要です。

参考資料:
  1. オレオサイエンス 第7巻 第10号(2007) 
  2. H.M. Evans & G.O. Burr, Proc. Soc. Exp. Biol. Med., 24, 740 (1927). 
  3. G.O. Burr & M.M. Burr, J. Biol. Chem., 82, 345 (1929). 
  4. A. Keys, J.T. Anderson & F. Grande, Lancet, 2, 959-66 (1957). 
  5. D.M. Hegsted, R.B. McGandy, M.I. Myers et al., Am. J. Clin. Nutr., 17, 281-95 (1965). 
  6. S.H. Rinzler, NY Acad. Med., 44, 936-49 (1968). 
  7. 0. Turpeinen, M. Miettinen, M. J. Karvonen et al., Am. J. Clin. Nutr., 21, 255-76 (1968). 
  8. D. Hollander, A. Tarnawski, K.J. Ivey et al., J. Lab. Clin. Med., 100, 296-308 (1982). 
  9. S.C, Goheen, E.C. Larkin, M. Manix et al., Lipids, 15, 328-36 (1980). 
  10. E.E. Birch, S. Garfield, D.R. Hoffman et al., Deu. Med. Child Neurol., 42, 174-81 (2000).
  11. 日本内科学会106:696~701,2017食事・運動療法の可能性と限界
  12. Oomen CM, et al : Association between trans fatty acid intake and 10-year risk of coronary heart disease in the Zutphen Elderly Study : a prospective population-based study. Lancet 357 : 746―751, 2001. 
  13. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会「日本人の食事摂取基準(2020年版)
  14. 文部科学省日本食品標準成分表2020年版(八訂)
  15. 脂質による健康影響:農林水産省 (maff.go.jp)
  16. すぐにわかるトランス脂肪酸:農林水産省