グルタミン(L-グルタミン)は、日本でも認知度が高く、私たちの体を作る重要な栄養素としてよく知られるアミノ酸のひとつです。多くのサプリメントに使用され、近年日本で注目を集めている栄養成分のひとつ、L-グルタミンとは何でしょうか?一般の健康な方でも、問題なく摂取できる物質なのでしょうか?また、L-グルタミンは健康にどのように役立つのでしょうか?
本記事で、この特殊なアミノ酸L-グルタミンの効果と利点について教えてもらいましょう。
グルタミンとは?
私たちの体をつくるたんぱく質は、わずか20種類のアミノ酸の組み合わせにより作られていることが知られています(1)。グルタミンは、このたんぱく質を構成する20種類のアミノ酸のひとつで、私たちの体の中でたんぱく質合成の原料となるほか、エネルギー源や、体内での窒素の移動手段としても機能するなど、生きる上で欠かせない重要な役割を果たしています。
また、アミノ酸は一般的にたんぱく質の構成成分として私たちの体内に存在しますが、グルタミンは単体で体内を巡る「遊離アミノ酸」として、最も豊富に存在している特殊なアミノ酸でもあります(2)。グルタミンは、日本で発見されたヒトの第5の基本味「うま味」を持つアミノ酸としてよく知られるグルタミン酸を原料に、私たちの体内で合成されている物質です。
グルタミンは、私たちの生活の上で不可欠である一方、体内で合成することができるアミノ酸であることから、「非必須アミノ酸」のひとつに数えられます(3)。一方で、場合によっては、グルタミンは摂取の必要が生じる「条件付き必須アミノ酸」と扱われることもあります(4)。
「条件付き必須アミノ酸」は、通常は体内で合成できるため摂取の必要性が高くない一方で、体調が悪いときや、手術などで傷を負ったときなど、体内のたんぱく質が不足して需要が急増している場合に、一時的に摂取する必要が生じるアミノ酸を指します。グルタミンも、手術後などの、創傷を治すためにたんぱく質の需要が高まる場合に、一時的に追加で補う必要が生じると考えられています。
一般的に、健康な成人は食事から十分な量のグルタミンを摂取し、自らの新陳代謝によって体内のグルタミン濃度のバランスを保つことが出来ていることが知られています(5)。
グルタミンとL-グルタミンの違いは?
私たちの体に含まれる「グルタミン」の多くは、厳密には「L-グルタミン」という物質を指しています(3)。そのため、グルタミンとL-グルタミンは同じものとして扱われることが多いです。この項目では「L-グルタミン」が何かを、少し詳しく解説していきます。
「L-」という表記は、私たちの体を構成するアミノ酸のほとんどが属する「L体」という構造であることを指す言葉です。アミノ酸の多くは、「L体」と「D体」という2パターンの構造を持っており、この2つは鏡合わせのような関係にあります(6)。L体とD体は、私たちの「右手と左手」のように、鏡に写せば同じ形になるものの、実際には立体的に重ね合わせることができない構造を持っています。
L体とD体は、融点や溶解度などの物理化学的性質は共通する一方、異なる特性も多いことが研究により報告されており、「同じアミノ酸でもL体とD体で味が異なる」などの差があることが知られています(7)。
実は、地球上の多くの生物を構成しているアミノ酸はL体に偏っており、逆にブドウ糖などを含む糖はD体に偏っているということが知られています(6)。本来L体とD体が近い配分で存在するであろう物質がどちらかに偏っているこの事実は、生命の起源と関係がある「ホモキラリティ」として、研究でも注目を集めています。
私たちの体内に存在するグルタミンのほとんどはL-グルタミンであり、L-グルタミンが異質な物質というわけではありません。L-グルタミンは、多くの研究によりその安全性と重要性が明らかにされている、私たちの生活に必要で身近な物質です。
グルタミンを含む食品は?
グルタミンはさまざまな食品に含まれるアミノ酸で、主に肉類や豆類などのたんぱく質が豊富な食品に多く含まれています。
この項目では、文部科学省が策定する「日本食品標準成分表(八訂)2023年増補」をもとに、身近な食品の中からグルタミンを豊富に含むと考えられるものをご紹介します(8)。
なお、この日本食品標準成分表は、厳密に「グルタミン含有量」ではなく「グルタミン酸含有量」ですが、グルタミンは体内でグルタミン酸から合成される物質ですので、参考として掲載します。
グルタミン酸を豊富に含む身近な食品(肉類・魚介類・豆類)
食品の可食部100gあたりに含まれるグルタミン酸量(mg)
肉類 |
|
ぶた ゼラチン |
10,000mg |
うし ビーフジャーキー |
9,200mg |
ぶた ヒレ赤肉 焼き |
5,900mg |
魚介類 |
|
とびうお煮干し |
12,000mg |
にしん かずのこ 乾 |
11,000mg |
まだら干し鱈 |
10,000mg |
豆類 |
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分離大豆たんぱく 塩分調整タイプ |
17,000mg |
凍り豆腐乾 |
11,000mg |
湯葉干し 乾 |
11,000mg |
グルタミン酸を豊富に含む身近な食品(乳類・卵類)
食品の可食部100gあたりに含まれるグルタミン酸量(mg)
乳類 |
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カゼイン |
19,000mg |
ナチュラルチーズパルメザン |
9,900mg |
脱脂粉乳 |
7,000mg |
卵類 |
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鶏卵 卵白 乾燥卵白 |
12,000mg |
鶏卵 全卵 乾燥全卵 |
6,300mg |
鶏卵 黄卵 乾燥黄卵 |
3,500mg |
これらの他に、野菜やナッツにもグルタミンは含まれていますので、バランスの取れた食事や健康的な生活を維持する限り、一般的にグルタミンの摂取量は十分であると考えられています。
実際に、厚生労働省が策定する「日本人の食事摂取基準」においても、たんぱく質の推奨摂取量は記載されている一方、非必須アミノ酸であるグルタミンについての推奨摂取量は明記されていません(3)。
ただし、「条件付き必須アミノ酸」と扱われることもあるように、健康状態が悪化した場合は、グルタミンの摂取を意識する必要が生じることもあります。
グルタミンの効果とメリット
普段十分な量のたんぱく質を摂取できるバランスの取れた食生活をしている方の場合、健康な状態であれば追加でグルタミンを補給する必要はありません。しかし、グルタミンは幅広い活躍を果たすことが示唆されている重要なアミノ酸であるため、以下のような健康を意識した体質調整をしたいと考えている方は、適量の使用をおすすめします。
消化器機能の維持と免疫力の向上の支援
グルタミンは、私たちの免疫機能や代謝機能など、幅広い役割を果たす強力な抗酸化物質グルタチオンの材料となります。グルタチオンは、グルタミン酸、システイン、グリシンの3つのアミノ酸が繋がったトリペプチドと呼ばれる物質の一種で、主にヒトの肝臓で薬物の代謝や解毒において重要な働きをしています(9)。
グルタミン酸は、グルタミンと体内でバランスを取りながら交換されているため、グルタミンも健康な消化器系の維持や、抗酸化作用による正常な免疫力の維持などにおいて、重要であることが示唆されています(10)。
病後の治癒に必要なたんぱく質の補充と体の強化
上記の通り、グルタミンは手術などによる大きな傷を再生する上で重要なたんぱく質供給源であることから、「条件付き必須アミノ酸」として術後の追加補給の必要性が示唆されています(4)。
治療を受けている場合は、医師による専門的な判断のもとで適した物質を摂取することが重要ですが、このようなグルタミンの活用方法を意識しておくと有効的であると考えられます。
体質の調整と体力の増強
グルタミンは筋肉を作るたんぱく質の構成物質であることから、運動や体力への活用もよく研究され、その効能について議論されてきました。
2021年に報告された研究では、定期的な運動とグルタミン摂取を組み合わた場合の相乗効果がどのようなものかが調べられました(11)。定期的に運動をする層と運動不足の層の両方を含む高齢女性を対象に、30日間グルタミンまたはプラセボを摂取してもらった後、膝筋肉の強度の検査や血液検査を行った結果、運動+グルタミン摂取グループで、膝筋肉の強度や血糖値、血漿の抗酸化反応の向上が確認されました。
また、運動+プラセボ摂取グループよりも、運動+グルタミン摂取グループの方が、血中の鉄分の低下が抑制されたことも確認されています。この研究では、運動とグルタミンの相乗効果による体質調整や体力増強への貢献が示唆されています。
栄養補給と健康の維持
2020年に報告された別の高齢者を対象とした研究でも、定期的な運動にグルタミン摂取を合わせた場合の効能が調査されました(12)。
この研究では、定期的な運動と30日間のプラセボ摂取をしたグループに比べ、定期的な運動と30日間のグルタミン摂取をしたグループの方が、炎症反応や酸化還元反応の状態が良好だったという結果が示されています。
このような研究からも、グルタミンの健康維持における効能は示唆されています。
グルタミンの副作用
これまで行われてきた、ヒトを対象としてグルタミン摂取の効能を調べる研究では、健康な人が1日20g〜30gの範囲でグルタミンを摂取する研究では副作用は報告されておらず、体重1kgあたり0.65g(60kgの成人であれば1日39g)のグルタミンを摂取する短期間の試験でも悪影響がなかったことから、グルタミンは安全性の高い物質であると示唆されています(13)。
しかし、長期間にわたって1日40gを超える大量のグルタミンを摂取することは、体内のアミノ酸の正常な代謝や、正常な免疫機能の維持に影響を与える可能性が示唆されています(14)。
また、たんぱく質摂取を制限されている腎臓病患者や、薬物療法を受けている方の場合は、まず医師に相談してからグルタミンの摂取を検討すると、より安全だと考えられます。