みなさんは慢性的な疲れや緊張感に悩んでいませんか?昼は仕事や家事で忙しく、夜はぐっすり眠れない。そんな方は、もしかしたらマグネシウム不足かもしれません!マグネシウムはカルシウムと密接な関係がありますが、カルシウムの重要性は知っていても、マグネシウムについては良く知らないという方も多いのではないでしょうか。「マグネシウムとは一体何?」「私たちの健康にとってどんな作用があるの?」薬剤師がマグネシウムの効果とマグネシウムを安全かつ効果的に摂取する方法を説明します。
マグネシウムとは?健康にとって重要?
マグネシウム(Magnesium)は人間にとって欠かせないミネラルの一つです。生体内には約 25 g のマグネシウムが存在し、その 50〜60% は骨に存在します。(1)残りの約40%は筋肉や脳、神経に分布しています。血液中にも全体の1%未満のマグネシウムが存在し、1.8〜2.3 mg/dLの一定濃度を保つように調整されています。血液中のマグネシウムが不足すると、腎臓からのマグネシウムの再吸収が促進されるとともに、骨からマグネシウムが遊離し、血中濃度を維持しようとします。
また、マグネシウムは300種類以上の酵素を活性化する働きがあり、生命維持において重要な生体反応に関係しています。骨や歯の健康、神経情報の伝達、筋肉の働きなどにおいて重要な役割を果たしています。
マグネシウムが不足すると、骨や歯の成長に影響を与えたり、筋肉がけいれんしやすくなったり、リラックスできなくなったりなど、健康の維持に良くない影響を及ぼす可能性があります。(2)このようなさまざまな健康障害が出ることが報告されていますが、通常の生活において、マグネシウム不足と断定できるような欠乏症が見られることはほとんどありません。ただ、マグネシウムは人間にとって欠かせないミネラルの一種であるため、食事からあまりマグネシウムを摂取できない場合には、サプリメントなどを活用して摂取するようにすると良いでしょう。
マグネシウムの働きと健康効果
マグネシウムの効果は非常に多岐にわたります。。主な効果は以下のとおりです。
1.エネルギーの産生と貯蔵(ATPアデノシン三リン酸)
ATP(アデノシン三リン酸)は、生物にとって大事なエネルギー供給源です。ATPがADP(アデノシン二リン酸)に代謝されエネルギーを取り出すときも、逆にADPからATPを生成しエネルギーを貯蔵するときも、どちらの反応にもマグネシウムが関係しています。
2.骨や歯の正常な発育を助ける
マグネシウムは、カルシウムとリンの代謝を調整し、骨や歯の形成に不可欠です。骨を作る骨芽細胞の活性化にも関与し、骨の中に入るカルシウムの量を調節しています。
3.筋肉の収縮や神経伝達をサポート
マグネシウムは、筋肉の収縮と弛緩のバランスを保ちます。また、セロトニンやGABAなどの神経伝達物質の生成に関わっており、スムーズな神経伝達をサポートします。
4.体の正常な代謝を促進
マグネシウムは、300以上の酵素反応の補因子として機能します。これには糖代謝などの栄養素の代謝反応も含まれており、マグネシウムが生体維持に重要な反応に関わっていることがわかります。
5.体をリラックスさせ、より良い睡眠をサポート
マグネシウムは、GABA(γ-アミノ酪酸)の生成に関わっており、神経系の興奮を抑制します。また、メラトニン(睡眠ホルモン)の生成と調整にも関与しているため、体内時計の調整を助けより良い睡眠をサポートします。
6.生活習慣病のリスクの低減
マグネシウムは、高血圧や糖尿病などの生活習慣病のリスクを低減する効果が期待されています。
マグネシウムを含む食品
マグネシウム含有量が多い食品のリストです(4)。
食品 |
100gあたりのマグネシウム含有量 |
食品 |
100gあたりのマグネシウム含有量 |
植物性食品 |
動物性食品 |
||
藻類/あおさ/素干し |
3200mg |
さくらえび/素干し |
310mg |
刻み昆布 |
720mg |
かたくちいわし/煮干し |
230mg |
板わかめ |
620mg |
なまこ/生 |
160mg |
干しエビ |
520mg |
ごまさば/さば節 |
140mg |
ごま/乾 |
370mg |
ほたてがい/煮干し |
120mg |
きな粉 |
260mg |
あわび/干し |
110mg |
とうがらし/果実/乾 |
190mg |
まいわし/丸干し |
100mg |
通常、植物性食品はマグネシウムの含有量が多く、特に藻類、ナッツ類などに多く含まれています。また動物性食品では、肉類よりも、ミネラルが豊富な海で育った魚介類の方がマグネシウムの含有量が多いと言えますバランスのとれた食事を心がけても、十分な量のマグネシウムを食事から摂取できない場合は、サプリメントを利用することも考えてみましょう。
マグネシウムの摂取ポイント
マグネシウムを摂取する際には、重要なポイントが2つあります。これらのポイントを参考にすることで、安心かつ効率的にマグネシウムを摂取できるでしょう。
1.マグネシウムの推定平均必要量と推奨量
厚生労働省によって、1日あたりのマグネシウムの推定平均必要量と推奨量、目安量が年齢と性別により以下のように設定されています。(1)
男性 |
女性 |
|||||
年齢等 |
推定平均必要量mg |
推奨量 |
目安量 |
推定平均必要量 |
推奨量 |
目安量 |
0~5(月) |
- |
- |
20 |
- |
- |
20 |
6~11(月) |
- |
- |
60 |
- |
- |
60 |
1~2(歳) |
60 |
70 |
- |
60 |
70 |
- |
3~5(歳) |
80 |
100 |
- |
80 |
100 |
- |
6~7(歳) |
110 |
130 |
- |
110 |
130 |
- |
8~9(歳) |
140 |
170 |
- |
140 |
160 |
- |
10~11(歳) |
180 |
210 |
- |
180 |
220 |
- |
12~14(歳) |
250 |
290 |
- |
240 |
290 |
- |
15~17(歳) |
300 |
360 |
- |
260 |
310 |
- |
18~29(歳) |
280 |
340 |
- |
230 |
270 |
- |
30~49(歳) |
310 |
370 |
- |
240 |
290 |
- |
50~64(歳) |
310 |
370 |
- |
240 |
290 |
- |
65~74(歳) |
290 |
350 |
- |
230 |
280 |
- |
75以上(歳) |
270 |
320 |
- |
220 |
260 |
- |
妊婦(付加量) |
+30 |
+40 |
- |
|||
授乳婦(付加量) |
+0 |
+0 |
- |
成人の場合、4.5 mg/kg 体重/日を体重当たりの推定平均必要量として、各年齢層の平均体重から値を設定しています。
また、サプリメント等、通常の食品以外からの摂取量の耐容上限量を、成人の場合 350 mg/日、小児では 5 mg/kg 体重/日としています。さらには、サプリメント以外の通常の食品からのマグネシウムの過剰摂取によって好ましくない健康影響が発生したとする報告は見当たらないため、通常の食品からの摂取量の耐容上限量は設定されていません。(1)
2.カルシウムと一緒に摂取しましょう
マグネシウムはカルシウムと密接な関係があります。サプリメントに、マグネシウムとカルシウムが一緒に配合されている製品が多いのは、そのためでもあります。
マグネシウムはカルシウムと協働して骨の健康を維持し、カルシウムに拮抗して血圧を下げたり筋肉の収縮を抑えたりしているため、カルシウムとマグネシウムはバランスよく摂取する必要があります。カルシウムを多く摂取すると、マグネシウムの排泄が増加するため、マグネシウムとカルシウムは1:2の比率で摂取するのが望ましいとされています。効率よく摂取できるように、バランスよく配合されたサプリメントを利用するのもおすすめです。
マグネシウム不足の場合は?
マグネシウム不足の主な原因としては、偏った食生活、ストレスの多い生活、アルコールの過剰摂取があげられます。そしてPPI(プロトンポンプインヒビター)とよばれる胃酸を抑える薬の長期使用など、特定の薬の使用もまれにマグネシウム不足を引き起こすことがわかっています。(5)また、病気による吸収障害や加齢に伴う吸収率の低下も要因となります。
このようにマグネシウム不足が起きると、骨の形成に影響が出るほか、不整脈や虚血性心疾患、高血圧、筋肉のけいれんなどの症状があらわれる可能性があります。(2)
マグネシウム不足(低マグネシウム血症)の症状
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疲労感
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吐き気・嘔吐
-
眠気
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脱力感
-
筋肉の痙攣
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ふるえ
-
食欲不振
-
抑うつ傾向
-
骨密度の低下
など、より深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。特に高齢者、妊婦、慢性疾患を抱える方はリスクが高く要注意です。バランスの取れた食生活や定期的な健康診断を通じて、予防と早期発見に努めることが重要といえます。
マグネシウムの過剰摂取による影響とは?
マグネシウムは人体に不可欠なミネラルですが、過剰摂取にも注意しましょう。マグネシウムは、通常は過剰に摂取しても腎臓から排泄されるため、食品からの摂取によって過剰摂取になる心配はほとんどありません。しかし、サプリメントなどから定期的に大量摂取する場合には、マグネシウムの過剰摂取が起こる可能性があります。ほとんどは、下痢・軟便の症状ですが、高マグネシウム血症が進行すると重症化する可能性があります。以下にマグネシウム過剰の症状を示しています。(6)
マグネシウム過剰(高マグネシウム血症)の症状
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下痢・軟便
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悪心・嘔吐
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口渇
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血圧低下
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徐脈
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皮膚潮紅
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筋力低下
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傾眠
高マグネシウム血症が重症化した場合には、以下の状態に至る可能性もあります。
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呼吸抑制
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意識障害
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不整脈
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心停止
マグネシウムの過剰摂取によって下痢が起こる作用を活かして、便秘薬である酸化マグネシウムという薬があります。作用が比較的緩やかなためよく使われていますが、高齢者や腎機能の低下した方などは、長期連用によってマグネシウムの過剰摂取になりやすいため、定期的に血中マグネシウムの濃度を測定するように求められています。
まとめ
バランスの取れた食生活を送っていれば、マグネシウムが不足したり過剰になったりする心配はありません。しかし、食事があまり取れていなかったり、マグネシウム含有量の少ない食品ばかり食べていたりすると、マグネシウム不足が起きているかもしれません。マグネシウムは生体内の重要な反応に関わっているため、気づかないうちに体調不調を起こしているということがあり得るでしょう。食品から十分なマグネシウムを摂取できていないと感じる方は、カルシウムとのバランスの良いサプリメントを検討してみてはいかかでしょうか。