高齢者の割合が非常に高い日本では、加齢に伴う脳機能の低下についての関心が非常に高く、認知機能を維持するための健康食品が注目を集めています。この記事では、脳細胞を構成する物質の一つであり、脳神経の保護に重要であることが示唆されているホスファチジルセリン(PS)について、その効能や安全性などを詳しく解説します!
ホスファチジルセリンとは?
ホスファチジルセリン(Phosphatidylserine:PS)は、リン脂質の一種で、主に神経細胞の細胞膜の内側に存在する、細胞膜の主要な構成物質です(1)。ホスファチジルセリンは脳の神経細胞や大脳皮質に多く存在しているため、人の脳機能への高度な思考を支え、記憶力維持、認知機能にサポートや、ストレス緩和などの健康効果を期待されています。
ホスファチジルセリンの働き
私たちヒトの最大の特長とされる、五感や記憶などの高次認知機能は、大脳の表面にある「大脳皮質」という部分が司っていると考えられています(7)。この大脳皮質の細胞の細胞膜を形成するリン脂質のうち、ホスファチジルセリンはその約15%を占めており、高次認知機能を司る大脳皮質の働きにおいて、シグナル伝達などの重要な役割を果たしていると考えられています(8)。
ヒトの脳で働くホスファチジルセリンの成分には、脳の発達や機能において非常に重要であることが広く知られているドコサヘキサエン酸(DHA)が含まれており、豊富なDHAがあるとホスファチジルセリンが高濃度になり、逆にDHAが枯渇するとそれによりホスファチジルセリンの量も減ることが報告されています(9)。DHAを含むホスファチジルセリンは、神経細胞内や、神経細胞同士の接点(シナプス)を通る正常な脳内シグナル伝播にとって、非常に重要であることが知られています(1)。
そのため、ホスファチジルセリン(PS)とDHAを両方蓄えることは、脳の思考の健康や柔軟な意思決定に重要な影響を与えると考えられています。
ホスファチジルセリン(PS)の摂取による効果
ホスファチジルセリンは、脳の神経細胞膜やミエリン鞘の維持に必要であり、高次認知機能の維持において重要であると考えられています(1)。ホスファチジルセリンは経口で効率よく摂取できることが知られており、ホスファチジルセリンの摂取による影響を調べた多くの研究により、幅広い効能が示唆されています(8)。ホスファチジルセリンの摂取による、脳機能、認知機能、アルツハイマーの治療にサポートなどの効果を報告した研究結果をまとめると、次のようになります。
1.老化による認知機能の低下を抑えて脳機能を維持する
ヒトの老化による認知機能の低下は、大脳皮質を構成するホスファチジルセリンとDHA量の減少など、神経伝達を阻害する生化学的変化や構造的変化に関連すると研究で報告されています。
さらに、軽度認知症からアルツハイマー病への進行は、ホスファチジルセリンに含まれるDHA量の減少に関連していると考えられています。
ホスファチジルセリンの摂取は、体内で効率的に吸収され、血液脳関門を通過し、神経細胞の生化学的変化と構造的劣化を安定化させることで、短期記憶の形成、長期記憶の強化、記憶を取り戻す能力、情報を学習する能力、注意を集中する能力、言語スキルとコミュニケーション能力、運動機能など、幅広い機能に寄与することが示唆されています(8)。
2.高齢者の抑うつ感情と概日リズムを改善して幸福感を高める
加齢に伴ううつ病などの気分障害は、抗うつ薬が十分に効果を発揮できないことが多く、治療に課題があるものとして研究が進められています。
その中で、うつ病を患う高齢者に対して1日にホスファチジルセリン300mg、DHA350mgを含むサプリメントを12週間摂取してもらい、その効能を調べた臨床研究により、うつ病評価テストの結果が有意に改善し、概日リズム(体内時計)の改善も示唆される結果が報告されています(10)。
このような研究などにより、ホスファチジルセリンには気分障害を緩和する効能があることが示唆されています。
3.ストレスと疲労を軽減する
ホスファチジルセリンは、脳機能の維持だけではなく、ストレスや肉体的疲労感を軽減することも示唆されています。
激しい運動後の反応速度や集中力の維持に対するホスファチジルセリンの効能を調べた臨床研究では、10分間の激しい運動前後での反応速度や集中力がプラセボと比べて維持され、視覚刺激と聴覚刺激の両方に対して効果が確認されたと報告されています(11)。また、ホスファチジルセリンの投与により、スポーツ選手のランニングの持続時間が向上したという報告もあり、ホスファチジルセリンの疲労軽減に対する効能はさまざまな研究により示唆されています(12)。
4.アルツハイマー病や子供のADHDの治療をサポートする
脳神経の炎症と密接な関係があると考えられているアルツハイマー病の治療について、ホスファチジルセリンが作る油性の小胞(リポソーム)が、治療薬の効果をサポートすることを示唆する結果が報告されています(13)。
また、注意欠如・多動性障害(ADHD)を持つ子供の脳では、ADHD治療薬の主なターゲットとなる前頭前野でのホスファチジルセリン濃度が低いことが知られており、ホスファチジルセリンとADHDの関連が示唆されてきました(14)。
実際に、ホスファチジルセリン摂取により、ADHDを持つ子供の注意欠如が抑制されたとする結果が複数の研究で報告されており、ホスファチジルセリンの効能に関する研究は今も注目を集めています(15)。
ホスファチジルセリンを豊富に含む食品
ホスファチジルセリンは、最初に牛の脳で発見されましたが、BSEのリスクがあり長期間摂取するには適しておらず、吸収効率も低いため、主要な補給源とはなっていませんでした。
しかし近年の研究により、大豆などの豆食品、鶏や豚の内臓、マグロ、サバ、牛肉、豚肉など、一般的な食品にもホスファチジルセリンが含まれることが知られています。特に、大豆由来のホスファチジルセリンは、BSEのリスクを回避できることに加え、記憶障害のある日本人の高齢者を対象とした臨床研究により、記憶検査のスコアが向上した結果と安全性が報告されています(16)。
ホスファチジルセリンが適している人
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年齢が上がるにつれて、思考を健康に保つことに関心が高まってきた方。
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集中力を向上させたい学生の方。
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日常的に多くの決定を必要とし、多忙な中で柔軟な反応が求められるビジネスパーソンの方。
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加齢に伴い抑うつ的な感情が強まっている方。
ホスファチジルセリンの副作用
ホスファチジルセリンのヒトに対する効能を調べた臨床研究では、ホスファチジルセリンを摂取したことによる重篤な副作用は報告されておらず、その安全性は高いと考えられています(8)。日本人の高齢者を対象とした臨床研究でも、26人の被験者が大豆由来のホスファチジルセリンを1日あたり300mg、6ヶ月間摂取しましたが、ホスファチジルセリンの摂取による有害事象は発生しなかったと報告されています(16)。
ホスファチジルセリンの摂取タイミング
ホスファチジルセリンは脂溶性の物質であり、食物の油脂が吸収を助けると考えられるため、食後にホスファチジルセリンを摂取することが推奨されます(17)。
ホスファチジルセリンのサプリメントの選び方
含有量
ヒトを対象としたホスファチジルセリンの効能を調べる研究では、多くの場合、1日100mg〜300mgのホスファチジルセリンを含むサプリメントを摂取するようにデザインされており、その中で有効性と安全性を示唆する結果が得られてきました(10)(15)(16)。そのため、同様の量を摂取できるサプリメントが推奨されます。
複合成分を含む製品
ホスファチジルセリンがリポソームという小胞を形成する特性を活用して、他の有効成分の吸収を高める利用方法が研究でもよく用いられます(13)。そのため、複合成分を含むサプリメントも推奨されます。
脳機能に関しての現在の研究では、ミントの一種であるスペアミントが、集中力の維持をサポートする効能を持つと示唆されています(18)。また、イチョウの葉やプロバイオティクスが、記憶力維持をサポートする効能を持つことを示唆する報告も多数あります(19)(20)。さらに、葉酸やビタミンB12は、幅広い年代にとって神経系の健康を促進することが報告されています(21)。
これらの脳機能を維持する効能が期待できるサプリメントと合わせて複合的にホスファチジルセリンを摂取すると、より効果が期待できると考えられます。
<リン脂質の概要>
一般的に、ヒトの細胞の細胞膜を構成するリン脂質の種類と含量は、以下の通りと考えられています(2)。
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ホスファチジルコリン(PC):以前はレシチンとも呼ばれたもので、総リン脂質量の約40%を占める。膜組織の維持だけでなく、ホスファチジルセリンの供給源としての役割も持つ(3)。
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ホスファチジルエタノールアミン(PE):以前はセファリンとも呼ばれたもので、総リン脂質量の約30%を占める。PSやPCなど、重要なリン脂質の供給源となり、オートファジーやミトコンドリアの働きをサポートする役割を持つ(4)。
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ホスファチジルイノシトール(PI):総リン脂質量の約10-15%を占める。細胞の分裂や代謝など、多くの機能を制御するシグナル伝達において重要な代謝経路を担う役割を持つ(5)。
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スフィンゴミエリン(SPH):総リン脂質量の約5-10%を占める。ミエリン鞘という、神経細胞の電気信号を素早く伝達する上で重要な、電気信号を周りへ漏らさないよう神経をカバーする物質を構成する(6)。
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ホスファチジルセリン(PS):総リン脂質量の約2-10%を占める。リン脂質全体の中での比率は高くないものの、脳の神経細胞や大脳皮質などヒトにとって非常に重要な組織に多く集まり、高度な思考を支える役割を果たす。