トランス脂肪酸は不飽和脂肪酸の一種ですが、悪玉コレステロールを増やして血液をドロドロにするなどの、健康に悪影響があるため、トランス脂肪酸の摂取を減らす心がけが大切です。
トランス脂肪酸の含有量が多い食品といえばマーガリンが代表的ですが、最近はメーカーによる軽減対策が行われており、バターよりも含有量が少なくなっています。
この記事では、トランス脂肪酸が多く含む食品トップ10に加えて、含まない食品や脂質の上手な摂り方も紹介するので、食生活に活かしていきましょう。
不健康な脂質「トランス脂肪酸」とは?
トランス脂肪酸とは、脂質の構成要素である脂肪酸の一種です。
脂肪酸は、構造の違いにより「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の2種類に区分され、トランス脂肪酸は不飽和脂肪酸に分類されます(1)。
不飽和脂肪酸といえば、魚や植物の油が代表的で、いわゆる【健康によい脂質】のイメージが強いですが、トランス脂肪酸はタイプが違うのです(2)。
不飽和脂肪酸は2つのタイプがあり、「シス型」と「トランス型」に分けられます。天然の食品に含まれる不飽和脂肪酸は、ほとんどがシス型で健康効果があります。
一方で、トランス型にあたるトランス脂肪酸は【不健康な脂質】です。天然の食品に含まれるトランス脂肪酸もありますが、とくに問題視されているのは人工的な処理により生成します(1)。
不飽和脂肪酸とは
不飽和脂肪酸とは?働き、健康効果と知るべきことについて医師が解説
健康な脂質と呼ばれるオメガ3脂肪酸とは
オメガ3とは、油脂のメイン成分である「脂肪酸」の「不飽和脂肪酸」の一種です。
オメガ3脂肪酸は、私たちヒトが体内で生成することができない重要な栄養素であるため、食事から摂取する必要のある「必須脂肪酸」の1つです。EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)、ALA(α-リノレン酸)が含まれています。
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トランス脂肪酸が生成する要因は2つ
上記のとおり、トランス脂肪酸が生成する要因は「人工由来」と「天然由来」の2種類があります。
「人工(工業)由来」のトランス脂肪酸
天然の食材を工業的に使いやすくするために人工的な処理をした際に生成します。
例えば、植物油を脱臭するための高温処理(200℃以上)の際や、液体状の植物油から固形状の硬化油(ショートニングやマーガリン)にするための水素添加の際などです(3)。
「天然由来」のトランス脂肪酸
牛肉や羊肉・牛乳・乳製品には微量のトランス脂肪酸が天然に含まれています。
牛や羊といった反すう動物の胃の中にはバクテリアが棲んでおり、シス型の不飽和脂肪酸をトランス型に変換する酵素を持つためです(3)。
トランス脂肪酸を多く含む食品トップ10
トランス脂肪酸が多く含まれている食品の代表として、マーガリンを挙げられます。
近年、健康を考慮してトランス脂肪酸を減らす動きが進んでおり、マーガリンや他の製品のトランス脂肪酸含有量は、昔よりもはるかに低減されています。
現在、1食分10gのマーガリンのトランス脂肪酸んの含有量はおよそ0.1gのみです。
以前はトランス脂肪酸が多かった冷凍食品や揚げ物も、現在は「トランス脂肪酸ゼロ(※)」の商品が大半です(4)。
(※食品100gあたり0.3g未満)
下記は、平成26~28年度に行われた調査結果をもとにしています。
【トランス脂肪酸(人工由来)を多く含む食品Top 10】
順位 |
食品 |
トランス脂肪酸量(g/100g) |
1 |
ポップコーンの素 |
4.8 |
2 |
乳等を主要原料とする食品 |
1.7 |
3 |
ショートニング |
1 |
4 |
マーガリン |
0.99 |
5 |
マヨネーズサラダクリーミードレッシング |
0.95 |
6 |
植物性油脂 |
0.91 |
調整ラード |
0.91 |
|
7 |
ファットスプレッド |
0.69 |
8 |
菓子パイ |
0.58 |
9 |
クロワッサン |
0.54 |
10 |
カレールウなど |
0.52 |
1位:ポップコーンの素
ポップコーンの素のトランス脂肪酸量(g/100g):4.8g
ポップコーンの素はトランス脂肪酸を多く含んでいますが、そのまま食べることはありません。
爆裂させて食べられる状態にしたポップコーンは、100gあたり0.15gほどトランス脂肪酸を含んでいます(5)。
2位:「乳等を主要原料とする食品」
(バター又はマーガリンと類似の用途のもの)
乳等を主要原料とする食品のトランス脂肪酸量(g/100g):1.7g
バターの規格を満たさない類似製品(バターよりも乳脂肪分が少ない製品やほかの食品を混ぜた製品など)です(6)。市販のパンや菓子類の原材料によく使用されます。
3位:ショートニング
ショートニングのトランス脂肪酸量(g/100g):1g
食品の口当たりをよくするために使用されます。サクサクやポロポロとした軽い食感を生み出すので、市販のパンや焼き菓子類・フライの原材料として欠かせない存在です。
また、アイスクリームの原材料に使われている場合もあります(7)。
4位:マーガリン
マーガリンのトランス脂肪酸量(g/100g):0.99g
バターは牛乳を主原料にしているのに対し、マーガリンの主原料は植物性油脂が一般的ですが、動物油脂(豚脂・牛脂・魚油など)が使われる場合もあります。
パンに塗るのはもちろん、パンやケーキといった焼き菓子の原材料に使われます(8)。
5位:マヨネーズ・サラダクリーミードレッシング
マヨネーズ・サラダクリーミードレッシングのトランス脂肪酸量(g/100g):0.95g
マヨネーズや、低カロリータイプのマヨネーズなどが該当します。
某大手マヨネーズメーカーのレギュラータイプと低カロリー(ハーフ)タイプを比較したところ、ハーフタイプのほうがトランス脂肪酸が少ないようです。
<某マヨネーズのトランス脂肪酸含有量の比較例(100gあたり)>
6位:植物性油脂(固形油脂を含む)
植物性油脂のトランス脂肪酸量(g/100g):0.91g
植物性油脂は、大豆油やなたね油・綿実油などを原料に精製され作られます。
食べやすくするために脱臭処理を加えた際に、微量のトランス脂肪酸が生成されるのです(3)。
6位:調整ラード
調整ラードのトランス脂肪酸量(g/100g):0.91g
調整ラードは、精製した豚脂を主原料に、牛脂やパーム油などをブレンドした油脂です。
食品にコクを出したり、風味をよくする用途があり、ラーメンやフライ・餃子といった加工食品に使われます(9)。
7位:ファットスプレッド
ファットスプレッドのトランス脂肪酸量(g/100g):0.69g
ファットスプレッドは、マーガリン類の一種として分類されており、マーガリンよりも油脂含有率が低いのが特徴です。
水分の割合が多いため、柔らかくパンに塗りやすい点やカロリーが低いメリットがあります(10)。市販のパンや焼き菓子類の原材料によく使われます。
8位:菓子パイ
菓子パイのトランス脂肪酸量(g/100g):0.58g
パイ作りには大量のバターを使いますが、劣化しやすいため市販の菓子パイには酸化しにくいトランス脂肪酸を含む油脂が使われる場合がほとんどです。
9位:クロワッサン
クロワッサンのトランス脂肪酸量(g/100g):0.54g
クロワッサンはバターをたっぷり使いますが、市販されているクロワッサンは、コストや保存性を考慮して、ショートニングやマーガリンを使用する場合がほとんどです(11)。
10位:ルウ
ルウのトランス脂肪酸量(g/100g):0.52g
カレー・ハヤシ・シチューなどのルゥにも油脂類が多く含まれており、市販のルウは、油脂の酸化防止やコストカットのためにトランス脂肪酸を含む油脂が使用される場合がほとんどです(12)。
トランス脂肪酸が健康に及ぼす悪影響とは?
人間にとって脂質は重要な栄養素ですが、トランス脂肪酸は健康に害を及ぼすため、なるべく摂取しないのが望ましいとされています(13)。
血液をドロドロにする
トランス脂肪酸を多く摂取すると、悪玉コレステロールを増加させ、善玉コレステロールの低下を招き、血液がドロドロになるとされています(14)。
冠動脈性心疾患のリスクが上がる
トランス脂肪酸が多い食事を続けると、血液がドロドロになり心筋に酸素を供給できなくなるため、冠動脈性心疾患のリスクが増大するとされています(14)。
炎症反応が促進する
トランス脂肪酸は、炎症反応を促進するとされています。血管内の細胞に炎症が起きた際にトランス脂肪酸があると動脈硬化を促進させ、心臓の細胞にダメージがある場合は心筋梗塞を招く可能性があるのです(15)。
アルツハイマーのリスクが上がる
血中トランス脂肪酸濃度が高い人は、アルツハイマー型認知症の発症リスクが高いとの研究結果があります(15)。
肥満のリスクが上がる
トランス脂肪酸を多く摂取すると、内臓脂肪が蓄積するため肥満につながるリスクが上がります(15)。
インスリン抵抗性が高まる
トランス脂肪酸は、血糖値を下げる働きを持つインスリンの効き目を低下させて、糖代謝の悪化を招く可能性が示唆されています(15)。
トランス脂肪酸の摂取目安は?
WHOでは、トランス脂肪酸の摂取を「総エネルギー摂取量の1%未満」に抑えるよう提示しています。
1日に2000kcalの食事を摂る場合、1日あたり2g未満が目安です。
日本人の平均的なトランス脂肪酸摂取量は、総エネルギー摂取量の0.3%であったため、食品安全委員会は「通常の食生活では健康への影響は小さい」との見解を示しています(16)。
トランス脂肪酸に関するQ&A
トランス脂肪酸に関する、代表的な疑問2つについて解説します。
Q1:バターとマーガリン、体に悪いのはどっち?
A:結論からいうと、どちらも区別することなく摂り過ぎには注意すべき食品といえます。その理由を詳しく見ていきましょう。
<バターのほうが、トランス脂肪酸含有量は多い>
バターとマーガリン100gあたりのトランス脂肪酸含有量を比較すると、バターは2g、マーガリンは0.99gです。
マーガリン100gあたりのトランス脂肪酸含有量は、平成18~19年では約8gでしたが、平成26~27年では約1gとなり約1/8に低減されています(17)。なかには「トランス脂肪酸ゼロ」の製品も誕生しているのです(4)。
<マーガリンのトランス脂肪酸のほうが、悪影響が強い>
マーガリンに含まれる人工由来のトランス脂肪酸は、バターに含まれる天然由来のトランス脂肪酸に比べて、血清コレステロールへの悪影響がはるかに強いとされています。
天然由来のトランス脂肪酸が健康に及ぼす悪影響は軽度ですが、過剰摂取は身体に毒です。天然由来・人工由来を区別することなく、トランス脂肪酸の摂り過ぎには注意すべきとされています(18)。
Q2:トランス脂肪酸のない食品は?
A:農林水産省が調査した日本人のトランス脂肪酸の摂取源を参考にすると、下記の食品からは供給されていません。
<トランス脂肪酸の摂取源にならない食品>
- いも類
- 砂糖・甘味料類
- 野菜類
- 果物類
- きのこ類
- 藻類
- 嗜好飲料類
- 補助栄養素・特定保健用食品
参照:(18)
トランス脂肪酸軽減と健康的な食事のポイント
トランス脂肪酸は人体にとって不必要であり、過剰に摂取すると生活習慣病を招くリスクが高くなります。
しかし、身近な食品に含まれているため、食生活において完全に排除するのは困難です。意識的にトランス脂肪酸の多い食品の摂取を減らしましょう。
一般的な日本人の食事では過剰摂取の危険性は低いとされていますが、脂っこい食事を好んで食べる食習慣がある方は、トランス脂肪酸も多くなりがちなので要注意です。
脂質や塩分カットを優先しよう
農林水産省は、健やかな食事のポイントについて「トランス脂肪酸軽減に注力するよりも脂質や塩分カットを優先すべき」としています。
なぜなら、脂質や塩分は過剰摂取により生活習慣病のリスクを高めますが、現状の日本人は過剰摂取気味であるためです(1)。
脂質は飽和脂肪酸を控えて、不飽和脂肪酸を摂ろう
一日に摂取するエネルギーのうち20~30%を脂質から摂るのが理想的です(19)。
また、脂質には控えたほうがよい「飽和脂肪酸」と、意識的に摂るべき「不飽和脂肪酸」があります。
「飽和脂肪酸」は、悪玉コレステロールを増やして血液をドロドロにする性質を持ち、「不飽和脂肪酸」は、悪玉コレステロールを下げて血液をサラサラにする働きがあるのです(20)。
脂質のうち、飽和脂肪酸は3割以下に抑えましょう(19)。
<飽和脂肪酸を含む食品>
- 肉
- バター
- ラード など
<不飽和脂肪酸を含む食品>
- 菜種油・オリーブ油(オレイン酸)
- 青魚(DHAやEPA)
- エゴマ油・アマニ油・クルミ など
脂質バランスが理想的な食事は、魚・大豆・野菜が中心の和食です。
和食を基本にして、肉は脂身の少ない部位をメインに選び、揚げ物は週末の楽しみにするなど、油の性質を理解して賢く健康的に食事を楽しみましょう。