オメガ3脂肪酸(n-3系脂肪酸)は多価不飽和脂肪酸の一種で、私たちヒトが体内で生成することができない重要な栄養素であるため、食事から摂取する必要のある「必須脂肪酸」の1つです。オメガ3脂肪酸には、健康を支える多くのメリットが報告されているEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)、ALA(α-リノレン酸)が含まれており、非常に重要な栄養素と考えられています。
この記事では、そんなオメガ3脂肪酸が持つ幅広い効能や、摂取量の目安、おすすめの摂り方などを詳しく解説します!
オメガ3脂肪酸の基本情報を解説!
オメガ3脂肪酸ってなに?
脂肪酸は脂質の一種で、炭素原子が鎖のように連なった先端にカルボキシ基という構造を持つ特徴があり、エネルギー源となるほか、細胞膜を構成するなどさまざまな働きをする栄養素です(1)。
脂肪酸は、炭素原子同士で二重結合する部分がない飽和脂肪酸と、二重結合する部分がある不飽和脂肪酸に分類され、オメガ3脂肪酸は不飽和脂肪酸に属します。オメガ(Ω)はギリシャ文字の最後ということから、「カルボキシ基がない方から数えて3番目から不飽和結合が始まる脂肪酸」をオメガ3脂肪酸と呼びます。
健康に多くの利点があることが知られているEPAやDHA、α-リノレン酸がこのグループに属しており、オメガ3脂肪酸は体内で生成できないことから、摂取する必要がある必須脂肪酸として認識されています。オメガ3脂肪酸は、私たちヒトの身体を作る細胞の細胞膜を形成する物質で、特に脳細胞など神経伝達に関わる部分に多く含まれることが知られています。
DHA、EPA、α-リノレン酸ってなに?
DHAとEPAはどちらも魚に豊富に含まれるオメガ3脂肪酸で、炎症を抑える重要な働きをするなど多くの共通点があり、両方を合わせて摂取することによる効果がよく研究されてきました(2)。
一方α-リノレン酸は魚ではなく、えごま油や亜麻仁油などの植物由来の食品に含まれるため、DHAやEPAとは分けて考えられることが多いです(3)。
DHAやEPAに限らず、α-リノレン酸なども含むオメガ3脂肪酸は、ヒトが体内で合成できないため、摂取しなければならない必須脂肪酸として重要視されています(1)。
なぜオメガ3脂肪酸は大事なの?
オメガ3脂肪酸は、不足すると皮膚炎や成長障害を起こすことが知られており、認知機能の維持や健常な発育、心血管の健康など、ヒトの健康を支える非常に重要な栄養素です(1)。
しかし、現代人は昔に比べ、魚料理を食べる量や回数が減少したことで、オメガ3脂肪酸の摂取量が減少したと考えられています。人類は、産業革命以前はオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸をおおよそ1:1の比率で摂取していたものの、産業革命以降はオメガ6脂肪酸に偏った西洋食中心となったことで、オメガ3脂肪酸が不足しやすくなったとされています(4)。
また、菜食主義者はナッツや亜麻仁油などの植物由来の食品から脂肪酸を摂取するため、DHAやEPAが少ないα-リノレン酸に偏った摂取となることが知られており、日常の食事からオメガ3脂肪酸の摂取目安量を達成することが難しいという現状があります(3)。
オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸は、体の中でバランスを取り合うことで、それぞれの良い働きを引き出すことがわかっており、バランスを意識した食生活が推奨されています(1)。そのため、オメガ3脂肪酸が豊富に含まれるフィッシュオイルは、近年さらに人気の健康食品となっています。
オメガ3脂肪酸の効果は?
オメガ3脂肪酸は、抗炎症作用、認知機能や心血管系の健康を支える作用など、多くの効果を示唆する報告がされてきました。オメガ3脂肪酸について報告されてきた効能をまとめると、次のようになります。
1.炎症反応や酸化反応を抑制する
オメガ3脂肪酸は、炎症反応に関連する細胞の働きを調整することが示唆されており、オメガ3脂肪酸の摂取量の増加により、炎症反応を抑制する物質の生成が促進されると考えられています(5)。
実際に、オメガ3脂肪酸をサプリメントとして摂取した関節リウマチ患者のグループで、症状が改善したとする臨床研究も20年以上前から報告されています(6)。また、オメガ3脂肪酸は酸化ストレスを抑える抗酸化剤として働くことも示唆されています(7)。炎症反応や酸化反応は多くの疾患に関わる重要な反応であるため、オメガ3脂肪酸は幅広く健康に貢献すると考えられています。
2.血流を改善して心血管の健康を保つ
オメガ3脂肪酸のうち、特にEPAとDHAは血管の健康において重要な働きをすることが知られており、摂取した脂肪酸のうち「EPA+DHA」が占める割合が高いグループは、低いグループに比べて心臓突然死を起こすリスクが大きく下がることが報告されています(8)。オメガ3脂肪酸の働きの中でも、心血管を保護する作用は最も多く研究報告されてきたもので、心疾患を抱える患者にはEPAやDHAなどの魚由来のオメガ3脂肪酸を一定量以上摂取することが推奨されています(9)。
オメガ3脂肪酸は中性脂肪を減少させる効果も確認されており、生活習慣病のリスクを下げる効果が期待されています(1)。特に脂っこい食事が多い方や運動不足の方にとって、オメガ3脂肪酸の摂取は大切です。
3.赤ちゃんの発育をサポートする
新生児や母乳で育てられている乳児のDHAの状態は、母親のDHAの状態に依存することが知られており、母親のDHA摂取量が少ない場合、赤ちゃんの神経発達が妨げられるリスクが高まることが報告されています(10)。
妊婦のDHA摂取不足を改善すると、赤ちゃんの視覚および神経発達不良のリスクが下がることが知られています(11)。オメガ3脂肪酸の中でも、特にDHAは赤ちゃんの成長期に必須の栄養素であり、妊婦に推奨される栄養素です。
4.精神を安定させる
研究によれば、オメガ3脂肪酸は脳機能にも役立つことが示唆されています。ヒトの脳は、乾燥重量の半分以上を脂質が占めていることが1980年代から知られており、多くの研究が行われてきました(12)。
食事によるオメガ3脂肪酸の摂取が不足している場合、不安障害やうつ病を含む多くの精神疾患のリスクが上がることが、さまざまな研究により示唆されています(4)。特に多くのストレスを抱えているビジネスマンには、高いEPA含有量の魚油サプリメントを選ぶことをおすすめします。
5.目の健康をサポートする
オメガ3脂肪酸には目の健康をサポートする効果もあることが、研究により示唆されています。オメガ3脂肪酸の抗炎症作用は、網膜の中心である黄斑の疾患に対して有効であることが多くの研究で示唆されているほか、ドライアイに対する効能も臨床研究により示されています(13)。オメガ3脂肪酸を摂取することは、目のケアにも繋がることが期待されています。
6.認知機能をサポートする
オメガ3脂肪酸の中でもDHAとEPAは、その認知機能への効能がよく知られており、認知機能低下の加速と軽度認知障害はDHA/EPAレベルと相関があり、DHAとEPAを含むサプリメントの摂取により改善したことが報告されています(14)。
また、ADHDや自閉症などさまざまな脳機能に関する疾患と関わることも多くの研究で示唆されており、オメガ3脂肪酸のEPA及びDHAの摂取による脳機能維持効果が期待されています。
7.健康的な皮膚を保つ
オメガ3脂肪酸が不足すると、皮膚炎を発症するなど皮膚に影響が出ることが知られています。また、オメガ3脂肪酸が皮膚の炎症を抑制するほか、創傷治癒を促進して健康的な皮膚を保つ美容的効果を持つことも報告されています(15)。
オメガ3脂肪酸の1日の摂取量の目安は?
厚生労働省が策定している「日本人の食事摂取基準(2020年版)」により、オメガ3脂肪酸の食事摂取の目安量が、性別と年齢に基づいて表1のように定められています。
表1. オメガ3脂肪酸の食事摂取基準(mg/日)(1)
年齢 |
男性 |
女性 |
0〜5 (月) |
900 |
900 |
6〜11(月) |
800 |
800 |
1〜2 (歳) |
700 |
800 |
3〜5 (歳) |
1,100 |
1,000 |
6〜7 (歳) |
1,500 |
1,300 |
8〜9 (歳) |
1,500 |
1,300 |
10〜11 (歳) |
1,600 |
1,600 |
12〜14 (歳) |
1,900 |
1,600 |
15〜17 (歳) |
2100 |
1,600 |
18〜29 (歳) |
2,000 |
1,600 |
30〜49 (歳) |
2,000 |
1,600 |
50〜64 (歳) |
2,200 |
1,900 |
65〜74 (歳) |
2,200 |
2,000 |
75 以上 (歳) |
2,100 |
1,800 |
妊 婦 |
該当なし |
1,600 |
授乳婦 |
該当なし |
1,800 |
厚生労働省によるオメガ3脂肪酸の摂取上限量は定められていませんが、生活習慣病の主なリスク要因である飽和脂肪酸の摂取量が過剰にならないよう、脂質全体に対する目標量の設定がされているため、過剰摂取をせずにバランスの取れた食事と健康的な生活を重視する必要があります(1)。
購入した魚油やフィッシュオイルサプリメントのオメガ3脂肪酸の含有量が低い場合、一日の目安を達成するために多く摂取することで、飽和脂肪酸も同時に摂取してしまい、余分な負担がかかってしまう可能性があります。また、異なるブランドのフィッシュオイルでは、EPAとDHAの比率も異なります。製品にオメガ3脂肪酸が含まれているとしても、自分のニーズに合ったものを選ぶことが重要です。
オメガ3脂肪酸を豊富に含む食品
オメガ3脂肪酸を豊富に含む食品としては、青魚、ナッツや植物油がよく知られています。次の表2と表3は、文部科学省が策定した「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」から抜粋した、オメガ3脂肪酸を豊富に含む食品リストです。
表2. オメガ3脂肪酸を豊富に含む食品上位 魚類(16)
(可食部100gあたりの含有量)
食品名 |
オメガ3脂肪酸 (mg) |
EPA (mg) |
DHA (mg) |
くじら (本皮 生) |
11,200 |
4,300 |
3,400 |
クロマグロ (脂身 蒸し) |
7,500 |
2,000 |
4,000 |
鮎 (内臓 焼き) |
5,800 |
1,800 |
2,300 |
シロサケ (いくら) |
4,700 |
1,600 |
2,000 |
さんま (みりん干し) |
3,900 |
1,000 |
1,600 |
表3. オメガ3脂肪酸を豊富に含む食品上位 ナッツ・植物油類(16)
(可食部100gあたりの含有量)
食品名 |
オメガ3脂肪酸 (mg) |
EPA (mg) |
DHA (mg) |
α-リノレン酸(mg) |
えごま油 |
58,310 |
- |
- |
58,000 |
亜麻仁油 |
56,630 |
- |
- |
56,000 |
チアシード (乾) |
19,430 |
- |
- |
19,000 |
くるみ (炒り) |
8,960 |
- |
- |
8,900 |
なたね油 |
7,520 |
- |
- |
7,500 |
ナッツのオメガ3脂肪酸含有量はかなり豊富でヴィーガンの方も食べられますが、ナッツに含まれる成分は主にα-リノレン酸で、EPAやDHAは多くありません。
オメガ3脂肪酸を補充して健康効果を得たい場合は、効能を示す研究報告が多く、EPAとDHAを両方摂取できる魚由来のオメガ3脂肪酸が推奨されます。また、EPAとDHAは熱に弱いため、加熱調理した魚料理に偏らないよう気をつけてください。
オメガ3脂肪酸の摂取タイミングは?
オメガ3脂肪酸を豊富に含むサプリメントも薬品ではないため、摂取するタイミングの指定はありません。フィッシュオイルは脂溶性であるため、消化が良くなる食事のタイミングに摂ると効果的と考えられます。
オメガ3脂肪酸の副作用は?オメガ3脂肪酸は体に悪い?
厚生労働省によるオメガ3脂肪酸の摂取上限が設けられていないことや、「必須脂肪酸」として扱われること、生活習慣病のリスク要因となる飽和脂肪酸ではないことなどから、オメガ3脂肪酸は重要な栄養素と考えられています(1)。
オメガ3脂肪酸はその血流を改善する効能から、血液をかたまりにくくする可能性があると考えられていますが、研究では出血リスクの増加を裏付ける証拠がない状況であると報告されています(17)。ただし、念の為に手術、または出産前には摂取を一時的に止めると、より安全と考えられます。また、魚アレルギーがある人や、投薬治療中の方は、医師に相談の上で摂取し、摂取後の反応にも注意してください。