亜鉛は、身体の健康維持に欠かせない微量元素の一つです。
ところが令和元年国民健康・栄養調査における日本人成人(18 歳以上)の亜鉛摂取量の平均は9.2mg/日(男性)、7.7 mg/日(女性)であり、1日の摂取量の目安に到達していない現状があります(1)。
今回は、亜鉛について、健康効果や働きに焦点を当ててわかりやすく説明するとともに、亜鉛不足の症状、亜鉛の補充が必要な人はどんな人か、亜鉛の具体的な必要量や亜鉛がたくさん含まれている食べ物などをまとめました。
亜鉛の健康効果と働き
亜鉛は、人間の体内では主にたんぱく質と結合して存在しています。
300種類以上の酵素の活性化に必要な物質であるとともに、たんぱく質の合成にも関与しています。
体重70kgの成人の場合、およそ1.5〜3gの亜鉛が体内にあると言われています。全身のほとんどの部位に存在しますが、そのうち6割が筋肉に、2〜3割が骨に、1割弱が皮膚や髪の毛に存在しています。
各臓器の中で最も亜鉛の濃度が高いものとしては、肝臓・腎臓・膵臓・前立腺・脳などがあります。(2)
亜鉛の働きや健康に対する主な効果には、以下のようなものがあります。
小児における身長の伸び
亜鉛が欠乏すると、身長の伸びが悪くなる成長障害が起こることが知られています。
成長ホルモンの分泌などに亜鉛が関わっているためであると考えられています。
皮膚代謝
亜鉛は皮膚の中でも表皮や角化細胞に多く存在し、皮膚を良い状態に保つのに重要な役割を果たしています。
コラーゲンをはじめとしたたんぱく質や核酸の合成に関与するとともに、抗酸化作用によって炎症を鎮め、線維芽細胞を活性化させることによって傷の治りを促します。
褥瘡(3) や糖尿病性足潰瘍(4)の患者さんに亜鉛製剤を使用すると、創傷治癒が早まることが報告されています。
またニキビ治療にも亜鉛製剤が広く用いられています(5)。
生殖機能
亜鉛は男性ホルモン(テストステロン)の合成・分泌に深く関わっています。
亜鉛が不足すると、特に男性において性腺の発達が妨げられたり、機能が低下することがわかっています。また精子の中の亜鉛の濃度が低下すると、不妊につながる可能性があります。
骨格の発育
骨は、作られたり壊したりを繰り返す代謝のおかげで、いつも適度な硬さを維持しています。
この骨代謝のシステムに重要な役割を果たす酵素や成長因子の合成・分泌にも、亜鉛が深く関与しています。亜鉛が足りなくなると、骨がうまく作られなくなり、骨粗鬆症が起こることがあります。
味覚の維持
舌には味覚を感じる味蕾(みらい)という部分があります。
味蕾の周囲にはアルカリフォスファターゼなどの亜鉛酵素が多く含まれることが知られています。亜鉛が欠乏すると、味覚を感じにくくなります。
免疫システムの維持
亜鉛は、細菌やウィルスの侵入に対する免疫機能を維持する働きがあります。
亜鉛不足により、免疫システムを司る細胞のバランスが崩れたり、免疫機能に関係するマクロファージや好中球の機能やナチュラルキラー細胞や補体活性が落ちると言われています。
亜鉛トローチを舐めることによって風邪の治りが早かった(6)とする報告もありますが、この研究においては使用したトローチに含まれる亜鉛の量が日本における1日の耐容上限量をはるかに超えており、耐容上限量の場合の効果は保証されていないことに注意が必要です。
<男性に対する亜鉛の効果>
男性に亜鉛の4つの効果を解説!精力や持久力・脱毛の悩みとおさらばしよう
亜鉛不足による症状とサインは?
亜鉛が不足しているかどうかは、血液検査によってある程度わかります。
しかし血液中の亜鉛の値は通常の健康診断や人間ドックでは測定しないこと、亜鉛は前述の通り血液以外の部位にも大量に含まれていることなどから、採血だけで亜鉛不足を全て診断するのは困難です。したがって、亜鉛不足を疑うためには日常でのセルフチェックが重要となります。
亜鉛不足の際によく見られる症状には、以下のようなものがあります(2)(7)。
ご自身に当てはまる症状がないか、チェックしてみてください。
亜鉛補給が必要な5つのタイプ:あなたは当てはまる?
日本では、通常の食事を摂取している健康な人の場合、極端に亜鉛が欠乏することはあまりありません。
ですが、一部に積極的な亜鉛の補給が必要な方がおられます。
ここでは亜鉛の補給が必要な人とはどんな人なのかについて、5つのタイプに分けて説明します。
1.高齢者
食事パターンが制限されており、栄養バランスの偏りが見られやすいです(8)。
また老化によって消化・吸収の働きが落ちること、亜鉛不足となりやすい持病や薬の使用が多いことなどが理由として考えられています。
2.ベジタリアン
植物性食品は全般的に含まれる亜鉛の量が少ないこと、亜鉛の吸収を妨げる物質が含まれていることから、植物性食品のみ食べるベジタリアンの方は、十分な量の亜鉛を摂取することが難しいです。
3.妊活中の男女・妊婦・授乳中の女性
亜鉛は性機能をサポートすると言われており、妊活中の方には男女問わず積極的な補給が望まれます。
また、妊娠するとお腹の赤ちゃんの分の亜鉛が必要となること、母乳にも亜鉛が含まれることより、妊婦や授乳中の女性は亜鉛不足に陥ることが多いです。
4.子供や若者
亜鉛不足は成長遅延や性線発達障害などの要因となり、健やかな成長の妨げとなります。
5.傷病者や手術を受けた患者
慢性肝臓病や糖尿病、慢性炎症性腸疾患や腎臓病の方は、特に症状がなくても亜鉛が不足していることがよくあります。
また亜鉛は皮膚組織のたんぱく質合成を助け、傷の治りをサポートします(2)。
このほか、アルコールの摂取量が多い方も注意が必要です(7)。アルコールによって亜鉛の吸収が減るとともに、尿の中へ排泄される亜鉛が増えるからです。
さらにアルコール多飲の方は食事量も減ることが多く、摂取する亜鉛も少なくなりがちです。
亜鉛不足の予防と改善策
亜鉛不足の予防と改善策には、食事の管理が欠かせません。
ここでは、亜鉛を多く含む食品をいくつかご紹介するとともに、亜鉛の1日の適切な摂取量の目安や亜鉛の摂り方に関して気をつけたいポイントをまとめました。
亜鉛を多く含む食品Top 5
亜鉛を多く含む食品としては、「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」によると、100g当たりの含有量が多い方から順に下記の通りとなっています(9)。
順位 |
食品 |
亜鉛の含有量 |
1 |
<貝類>かき くん製油漬缶詰 |
25.0mg |
2 |
<貝類>かき 養殖 水煮 |
18.0mg |
3 |
こむぎ [その他] 小麦はいが |
16.0mg |
4 |
<貝類>かき 養殖 生 |
14.0mg |
5 |
<貝類>かき 養殖 フライ |
12.0mg |
この他、一食分で計算した場合、亜鉛が多く含まれている食品としては、多い順に生かき8.4mg、輸入肉リブロース(焼き)6.3mg、牛ヒレ(焼き)6.0mg、輸入牛もも(焼き)5.3mg、牛ひき肉(焼き)5.3mgの順となっています(10)。
アレルギーなどの関係で動物性食品の摂取が難しい方については、植物性食品からの摂取が必要です。
一食分で計算すると、多い順からがんもどき1.6mg、マカロニ・スパゲッティ(乾)1.5mg、発芽玄米めし1.4mg、ピュアココア1.3mg、玄米めし1.2mgとなっています。ただし動物性食品より含有量がはるかに少ない(10)ので、効率的な摂取を考えるのであれば、動物性食品からの摂取、もしくはサプリメントの併用をお勧めします。
<手軽に亜鉛が摂れる食べ物ランキングとコンビニ食品8選!牡蠣の他に亜鉛が多い食べ物は?【管理栄養士厳選】>
<参考資料:腸活お役立ち情報 | ビオリエ>
亜鉛の1日適切な摂取目安量
推奨量(RDA: recommended dietary allowance)とは、ほとんどの人が1日の必要量を充たすと推定される1日の摂取量のことです。
亜鉛の推奨量は、18~74歳の男性で11mg、75歳以上の男性で10mg、18歳以上の女性で8mgとなっています。
また日本における亜鉛の耐容上減量(UL: tolerable upper intake lever)は、18~64歳の男性で45mg、65歳以上の男性で40mg、18〜74歳の女性で35mg、75歳以上の女性で30mgとなっており、食事からの亜鉛摂取の場合は摂りすぎの心配はほぼありません(11)。
亜鉛を摂取する際には、一緒に摂る食物にも注意が必要です。亜鉛は主に十二指腸や小腸で吸収されますが、一緒に摂る食べ物によって吸収率が20〜40%前後と変動します。
主に小麦やシリアル、豆製品などに含まれるフィチン酸や加工食品に含まれる食品添加物の一部は、亜鉛の吸収を妨げます。
またカルシウムや乳製品、食物繊維、コーヒーやオレンジジュース、アルコールなども亜鉛の吸収を阻害することが知られています。
反対に、肉や魚に多く含まれるヒスチジンやグルタミンなどのアミノ酸やクエン酸、ビタミンCなどは亜鉛の吸収を促すことがわかっています(2)。
サプリメントを使用して亜鉛を補充する際には、亜鉛の摂りすぎ(過剰摂取)にも注意が必要です。
亜鉛を摂りすぎると、銅や鉄など、他の微量元素の吸収が妨げられます。銅の不足によって銅欠乏症による貧血などが見られるほか、鉄の不足によって貧血や胃部不快感などが起こります。
まとめ
以上、亜鉛不足が引き起こす健康リスクと症状について、そもそも亜鉛とはどんな物質かを簡単に説明するとともに、亜鉛補給が必要な5つのタイプ、亜鉛不足の予防と改善策についてわかりやすくまとめました。
亜鉛は、身体の中で非常に重要な働きを担っています。しかし日常の食生活では十分に摂取できていないことも多く、知らないうちに亜鉛不足となっている可能性があります。
定期的なセルフチェックを通じて亜鉛不足の兆候がないかを確認する習慣をつけましょう。