食生活のサポート

エゾウコギは高麗人参?エゾウコギの効果と副作用を解説

監修者 井林 雄太 医師 公開日:2024-04-02 最終更新日:2024-08-12

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エゾウコギは高麗人参?エゾウコギの効果と副作用を解説

監修者井林 雄太 医師 公開日:2024-04-02 最終更新日:2024-08-12

寒冷なシベリアで最も愛されている栄養サプリメントを知っていますか?それはエゾウコギです!エゾウコギとは一体なんでしょうか?エゾウコギは、有名な健康食品であるシベリア人参と関係があるものなのでしょうか?​ま​た、エゾウコギを摂取する際は、何に注意する必要があるのでしょうか?この記事では、極寒の地で愛用されてきた健康食品エゾウコギについて紹介します!

エゾウコギとは?

エゾウコギは朝鮮人参(高麗人参)と同じウコギ科に属する高さ2〜3mの落葉低木で、幹に下向きの鋭くとがった刺が密生している特徴を持つ植物です。中国北東部や朝鮮半島、ロシアなどの寒冷地に自生し、日本では北海道にのみ自生していることから「蝦夷(エゾ)ウコギ」と呼ばれています。ロシアではハリウコギ(eleuterococcus​​​​​​ prickly)、中国では​​​​刺五加(シゴカ)、アメリカではシベリア人参(Siberian Ginseng)とも呼ばれます。つまり、エゾウコギとシベリア人参は、同じものを指す言葉です。

エゾウコギは医食同源の植物として認識されており、生薬名は、根茎を用いたものが刺五加、根の皮を用いたものが五加皮(ゴカヒ)と呼ばれています。エゾウコギの多くの利点は古くから知られており、特に五加皮は栄養補給や血の滞りの改善のため約2,000年前から活用されてきたと言われています(1)。

エゾウコギの活用には長い歴史がありますが、近代科学による研究が深まったのは1950年代に入ってからのこととされています(2)。1950年代後半に旧ソ連が関連研究に力を入れ、1980年のモスクワオリンピック時に旧ソ連代表アスリートの栄養サプリメントとして使用しました。その結果、強壮剤として運動パフォーマンスの向上に貢献したことで、エゾウコギは有名となりました。その後、近年ではヨーロッパやアメリカなど世界中の国々で注目され、現在はヨーロッパの薬局方“Europian ​​Pharmacopoeia”にも収載されています(3)
 

エゾウコギの栄養素は?

エゾウコギには、さまざまな糖類、アミノ酸、脂肪酸、ビタミン、ミネラルが含まれています(4)。これに加えて、豊富なフラボノイドやポリフェノールも含まれており、中でもリグナン、クマリン、フェニルプロパノイド誘導体を含むエゾウコギからの抽出物「エレウテロサイド(エレウテロシド Eleutherosides)」は、その効能から最もよく研究されてきました(5)

エレウテロサイドにはA〜Gまでのさまざまな種類がありますが、その中でもエレウテロサイドBとエレウテロサイドEは、科学者から注目されてきた物質です。エレウテロサイドBは植物性ポリフェノールであるリグナンの1種で、抗酸化作用、免疫調節作用、抗炎症作用、抗疲労作用など数多くの効能があることが報告されています(6)。また、エレウテロサイドEには、強力な抗炎症作用があるほか、浮腫を改善する効果もあることが報告されています(7) エゾウコギの効能成分は、特有のエレウテロサイドから糖類、アミノ酸など多岐にわたり、人類の歴史を通じて幅広く活用されてきました。これまでの数世紀にわたる活用の歴史を通して、エゾウコギには私たちの免疫力に対して肯定的な影響を与えると認識されています。

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エゾウコギの効果

古くから、エゾウコギに含まれる多様な栄養素は、私たちが外部の急激な変化に対応するための活力を補給して体質を整えるとともに、健常な精神状態の維持や、免疫力の向上の手助けにもなると示唆されてきました。

これらの効能から、エゾウコギは「適応を促進するもの」という意味を持つ「アダプトゲン(adaptogen)」の一つに数えられ、ストレスに適応した身体を作る助けとなる薬として認識されてきました(8)。エゾウコギが持つ効能は多岐にわたるため、現在も研究が進められている途中であり、その全容が解明されているわけではありませんが、ここではエゾウコギの効果の一部を紹介します。

 

エゾウコギの効果:1.活性酸素の代謝促進による抗酸化作用

エゾウコギエキスを摂取することによって、活性酸素の代謝が促進され、抗酸化力が向上することが報告されています(1)。この効能は、エゾウコギエキスが活性酸素を除去する酵素の一つであるスーパーオキシドジムスターゼ(SOD)の活性を高め、過酸化脂質(LPO)の生成を抑制することによるものだと報告されています。

 

エゾウコギの効果:2.免疫力向上を助ける

エゾウコギには免疫力を向上させる効果があることも報告されています(8)。 エゾウコギエキスを摂取すると、ヒトの免疫で重要な役割を果たすマクロファージの働きが促進され、体内の炎症を抑制して感染症や病気に対抗する能力が高まることで、健康を維持するのに役立つと示唆されています。

 

エゾウコギの効果:3.メンタルを安定させる

エゾウコギは、ストレスや不安を和らげ、メンタルヘルスを安定させることに役立つとも報告されています(6)。ラットを用いた研究では、エゾウコギエキスの投与により、なじみのない環境へのストレス耐性が増強された結果や、水泳運動の持続時間が延びた結果が報告されました。また、健康な成人に対するプラセボとの比較試験においても、精神的ストレスによる心血管への悪影響を緩和する結果が報告されています。これらの結果により、エゾウコギには心のバランスを保ち、精神的な安定を促す効能があると考えられています。

 

エゾウコギの効果:4.心身の適応力を高める

エゾウコギには特有の抽出物であるエレウテロサイドの他にもフラボノイド、ポリフェノール、糖類、アミノ酸、脂肪酸、ビタミン、微量ミネラルなど豊富な栄養素が含まれているため、エネルギーを増大させ、疲労を軽減し、​​​​​​心身のバランスを整えると考えられています(4)。特に消化器系や代謝系の機能を調整し、体内のさまざまなシステムがストレスに適応することをサポートすると示唆されています。

 

エゾウコギの副作用と注意点

エゾウコギは生薬としての長い歴史を持つ天然の素材であり、エゾウコギに関するほとんどの研究において、経口摂取による副作用は​​報告されていないと言われています(2)。また、高血圧の患者にエゾウコギは投与すべきでないとされてきましたが、その根拠を調べた研究では、高血圧を悪化させるような副作用は確認されず、不必要なエゾウコギの利用制限はかえって患者にとってのデメリットに繋がると報告されています(9)

このように、エゾウコギはその安全性が報告されてきましたが、エゾウコギは豊富な栄養素を含むために、その研究は今も進められている段階です。そのため以下には、エゾウコギの利用に関する一般的な留意点を参考として提供します(10)

  • 妊娠中や授乳中の方は、エゾウコギの使用に関する研究が少なく、安全性が確保できていないため、使用を避けることが勧められます。

  • 小児の方も同様に、エゾウコギの使用に関する研究が少ないため、使用を避けることが勧められます。

  • エゾウコギなどの医食同源の植物は、豊富な栄養素を含むことから他の薬剤に影響を与える可能性があるため、他の治療薬を使用している場合は、まず医師に相談してから使用を検討するほうが良いでしょう。これにより相互作用による副作用を防ぐことができます。

参考資料:
  1. Bjørklund, G., Dadar, M., Martins, N., Chirumbolo, S., Goh, B. H., Smetanina, K., & Lysiuk, R. (2018). Brief Challenges on Medicinal Plants: An Eye-Opening Look at Ageing-Related Disorders. In Basic and Clinical Pharmacology and Toxicology (Vol. 122, Issue 6)
  2. Gerontakos, S., Taylor, A., Avdeeva, A. Y., Shikova, V. A., Pozharitskaya, O. N., Casteleijn, D., Wardle, J., & Shikov, A. N. (2021). Findings of Russian literature on the clinical application of Eleutherococcus senticosus (Rupr. & Maxim.): A narrative review. In Journal of Ethnopharmacology (Vol. 278). 
  3. Arouca, A., & Grassi-Kassisse, D. M. (2013). Eleutherococcus senticosus Studies and effects. Health, 05(09), 1509–1515. 
  4. Załuski, D., Olech, M., Galanty, A., Verpoorte, R., Kuźniewski, R., Nowak, R., & Bogucka-Kocka, A. (2016). Phytochemical Content and Pharma-Nutrition Study on Eleutherococcus senticosus Fruits Intractum. Oxidative Medicine and Cellular Longevity, 2016. 
  5. Yoshimatsu, K., Zhu, S., & Komatsu, K. (2017). MS/MS similarity networking accelerated target profiling of triterpene saponins in Eleutherococcus senticosus leaves. Food Chemistry, 227. 
  6. Huang, L. Z., Zhao, H. F., Huang, B. K., Zheng, C. J., Peng, W., & Qin, L. P. (2011). Acanthopanax senticosus: Review of botany, chemistry and pharmacology. In Pharmazie (Vol. 66, Issue 2). 
  7. Fukada, K., Kajiya-Sawane, M., Matsumoto, Y., Hasegawa, T., Fukaya, Y., & Kajiya, K. (2016). Antiedema effects of Siberian ginseng in humans and its molecular mechanism of lymphatic vascular function in vitro. Nutrition Research, 36(7). 
  8. Jin, L., Schmiech, M., el Gaafary, M., Zhang, X., Syrovets, T., & Simmet, T. (2020). A comparative study on root and bark extracts of Eleutherococcus senticosus and their effects on human macrophages. Phytomedicine, 68, 153181. 
  9. Schmidt, M., Thomsen, M., Kelber, O., & Kraft, K. (2014). Myths and facts in herbal medicines: Eleutherococcus senticosus (Siberian ginseng) and its contraindication in hypertensive patients. Botanics: Targets and Therapy. 
  10. Natural Standard. (2012, March). Siberian ginseng: A review of the literature. Natural Medicine Journal, 4(3)