近年、「MSM」という自然由来の硫黄化合物は皮膚や爪、関節の健康を保ち、運動後の不快感を和らげる効果が期待されています。
人間の身体だけではなく、地球上に幅広く存在するMSMは、さまざまな研究により、皮膚や関節を保護する身近な効能だけでなく、運動をサポートする効能なども示唆されている、近年注目を集める物質です。
一体、MSMとはどのようなものなのでしょうか?また、関節を保護する効能で有名なグルコサミンとは、どのような違いがあるのでしょうか?
この記事では、MSMの基本情報からその効能に関する研究報告、おすすめの摂取方法まで幅広く解説します。
MSMとは?
MSM(メチルサルフォニルメタン)は、自然由来の硫黄化合物で、主に関節の健康維持や肌の美容に効果があるとされています。抗炎症作用やコラーゲン生成をサポートし、関節の柔軟性や肌の健康を促進します。
MSMはジメチルスルホンとも呼ばれる、硫黄原子を中心とした小さな分子です(1)。
天然のMSMは、主に藻類やプランクトンにより合成され、空気中に浮かび上がった後、雨となって土壌を整え、植物に取り込まれ、植物を食べた人間や動物を通って海に還るという、「硫黄循環」により地球を巡っている物質の一つと考えられています(2)。
MSMは地球上のさまざまな動物や植物が持つ有機化合物であると同時に、人工的に合成することもでき、古くから化学研究で活用されてきた歴史も併せ持つ物質です(3)。
1970年代に臨床応用においても注目を集め始めたMSMは、医学の分野で関節炎などの炎症反応の軽減や、運動後の不快感を和らげる効能が報告されたことで、現在サプリメントの原料の一つとしてよく使用されています。
MSMが注目されている理由
MSMが注目されている理由は、主に2つの大切な働きがあるからです:
抗炎症作用
MSMは、体の中で痛みや腫れを減らす手助けをします。特に、運動後や年齢を重ねたときに関節が痛くなるのを和らげるのに役立ちます。
抗酸化作用
MSMには、体の細胞を傷つけないように守る力もあります。これにより、肌を健康に保つことができ、年齢を感じにくくする効果もあります。
これらの理由で、MSMは健康や美容に興味がある人たちに人気があるのです。
MSMの効果
近年注目を集めるサプリメントであるMSMは、主に関節保護の作用に焦点を当てられていますが、実際には臨床研究により様々な効果が報告されている物質です。
この項目では、硫黄原子を中心とする小さな分子であるMSMが果たすと考えられている、多くの重要な役割や効果について詳しく解説します。
関節と活動時の痛みを軽減
MSMの最も注目されている効能は、炎症を抑えて関節の痛みを軽減する作用です(1)。MSMの働きを解説するために、私たちの身体で起こっている炎症反応について、ここで簡単に説明します。
私たち人間は、病原体などの体内に入った異物から身体を守るため、直接異物を迎撃する細胞グループ、異物への迎撃を指示する細胞グループ、さらにこの2つのグループ間でのコミュニケーションを可能にするシグナル物質の連携を可能にする、さまざまな「シグナル伝達経路」を働かせることによって、臨機応変に異物と戦っています(4)。
炎症反応は、身体が異物と戦った結果生じるものです。しかし、過剰な炎症反応は身体にとっても害があるため、適切な調整が非常に重要となります。
MSMは、この炎症反応の調節の上で非常に重要な、「NF-κB経路」というシグナル伝達経路の過剰な働きを抑制することで、多くの炎症反応を軽減することが示唆されています(5)。
実際に、MSMを変形性膝関節症の患者に摂取してもらった臨床研究では、1日3回MSM500mgを12週間摂取したグループで、変形性膝関節症の症状や痛みを計るスコアが大きく改善したことが報告されています(6)。
加齢に伴う膝や肘などの関節の痛みを抱えるようになった方にとって、MSMは痛みを和らげ活動をしやすくする効果が期待される成分と考えられています。
また、炎症反応を引き起こすシグナル物質は軟骨の保存自体にも悪影響を与えるため、MSMはこのような物質の産生を抑制して、軟骨の保護にも役立つことが示唆されています(7)。
免疫力を高め、体質を調整する
MSMは、上記のような炎症反応を抑えることに繋がる免疫系の調節を含め、体質を改善する重要な働きをすることが示唆されています。
MSMは、免疫系において非常に重要なシグナル伝達経路である「NF-κB経路」を抑制する作用があり、過剰な免疫系の働きを抑えると考えられています(5)。
また、MSMは活性酸素のコントロールにおいても重要であることが示唆されています。
活性酸素は、適量であれば免疫機能においても重要な物質ですが、過剰になると免疫機能の低下、血管へのダメージ、シワの形成など、多くの問題を引き起こすことが知られています(8)。
活性酸素は、細胞の中にあるミトコンドリアが産生することが知られており、NF-κB経路の中でこのミトコンドリアが働くことも知られています。そのため、MSMがNF-κB経路の過剰な働きを抑制する効能は、免疫系での活性酸素の過剰産生も防ぐことが、研究により示唆されています(9)。
さらに、MSMは活性酸素を産生する他のシグナル伝達経路の働きも抑えることが研究で報告されており、さまざまな角度から活性酸素の過剰産生を抑えることが示唆されています(10)。
このように、MSMがNF-κB経路を調整する作用は、炎症反応を抑える効果と、活性酸素の過剰産生を抑える効果の両方により、適切な免疫機能の維持に寄与すると考えられています。
運動後の迅速な体力と状態の回復を支援する
MSMは急性運動後の迅速な体力と状態の回復をサポートすることが期待されています。
MSMの抗炎症作用や抗酸化作用は、免疫だけでなく運動機能にも良い影響を与えることが、ヒトを対象とした研究により示唆されています。
ハーフマラソンに参加するマラソンランナーを対象に、MSMまたはプラセボを二重盲検法で無作為に割り当て、レース前21日間+レース後2日間の計23日間摂取した両グループの状態を比較した研究では、MSMを摂取したグループで筋肉痛と関節痛のスコアが有意に低くなったことが報告されています(11)。
MSMまたはプラセボを10日間摂取した一般男性に対し、14kmのランニング後の状態を比較した別の研究においても、酸化ストレスを測る指標の値がMSM摂取グループで低かったことが報告されており、MSMは急性運動後の酸化ストレスを軽減することが示唆されています(12)。
肌の弾力性の維持
MSMは、美しい肌の維持にも有効である可能性が研究により示唆されています。
MSMまたはプラセボを1日3g、16週間摂取した女性の肌を、シワの数や深さなどの計測、主観的評価、専門家による客観的評価で比較した研究では、MSMを摂取したグループでシワの総数、深さなどの各指標が、機器の計測と専門家による客観的評価の両方で統計的に有意に改善した結果が得られました(13)。
また主観的な評価についても、統計的に有意ではありませんでしたが、プラセボ摂取グループに比べて良好な結果が得られたと報告されており、MSMの美容への効能が示唆される結果となったことが報告されています。
MSMは他の成分と組み合わせると効果的?おすすめの摂取方法を解説!
MSMとグルコサミンは、どちらも柔軟な関節の維持に効果的な要素を持つことから、しばしば同一のものだと誤認されます。
しかし実際には、グルコサミンはグルコースにアミノ基がついたアミノ糖の一種であるのに対し、MSMは硫黄原子が中心となる有機硫黄化合物であるため、明確に別の物質です。
変形性膝関節症に対する経口摂取の効果を検証した研究では、MSMとグルコサミンを両方摂取することで、より迅速な効能を得られることが示唆されています(6)。この研究では、
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①MSM+グルコサミン
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②MSM+プラセボ
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③プラセボ+グルコサミン
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④プラセボ+プラセボ
4つのグループに、被験者が二重盲検法で無作為に割り当てられ、それぞれ1カプセル500mg含まれるものを1日3回、12週間摂取した跡部、変形性膝関節症の症状を評価する疼痛指数や関節膨張指数などが比較されました。
その結果、MSMまたはグルコサミンのどちらかのみを摂取したグループでもプラセボに比べて有意に症状が改善しましたが、MSMとグルコサミンの両方を摂取したグループではそれを上回る疼痛指数、膨張指数の低下が確認され、組み合わせて摂取する効能の大きさが示唆されました(6)。
また、MSMをヒアルロン酸と組み合わせる方法や、クルクミンと組み合わせる方法も、別の研究により効能を高めることが示唆されています(14)。
クルクミンは、ウコンから抽出されるポリフェノールの一種で、近年ヒトを対象とした研究で関節保護の強い効果があることが報告された、注目を集める物質の一つです(15)。
MSM単体でも効果が期待できますが、グルコサミンやヒアルロン酸、クルクミンなどと組み合わせると、より高い効果が期待できると考えられています。
MSMに副作用はある?
MSMはヒトにとって忍容性が高い物質として知られており、安全性が高い物質であると考えられています。
厚生労働省においてMSMの摂取量に関する規制はなく、アメリカのFDAが定める「一般に安全と見なされる物質(generally recognized as safe:GRAS)」に1日4,845mg以内のMSM摂取が認定されています(1)。
MSMを用いたサプリメント摂取は基本的に安全性が高いと認識されていますが、アレルギーを心配する場合は、少量を摂取して反応を観察することも有効的です。
妊娠中や授乳中の女性、薬物を服用している人、または医療治療を受けている人は、医師に相談をしてから摂取を検討するようにしてください。