必須脂肪酸とは、健康維持には欠かせない成分であるにもかかわらず、人間の体内で生成することができないため、食物から摂取しなければいけない脂肪酸のことを指します。
必須脂肪酸は、エネルギー源として利用されるほか、ホルモン様物質の生成に関係しているなど、細胞膜の構成成分になって身体機能を維持するには不可欠です。(1)
この記事では、必須脂肪酸の種類や役割、健康効果、1日の推奨摂取量などについてご紹介します。必須脂肪酸について詳しく知り、健康維持の参考にしてみてください。
必須脂肪酸とは?不飽和脂肪酸と同じもの?

必須脂肪酸は、脂肪酸の中でも人間が体内で生成できない脂肪酸のことを指し、食べ物から摂取しなければいけません。欠乏すると皮膚炎などの健康問題が発生することがあります。
近年注目されているDHA、EPA、α-リノレン酸、アラキドン酸などは、すべて必須脂肪酸に属します。DHAとEPAは魚の脂身やフィッシュオイルから摂取でき、α-リノレン酸は亜麻仁油やエゴマ油に豊富に含まれています。
α-リノレン酸とEPA、DHAはオメガ3脂肪酸、リノール酸とアラキドン酸はオメガ6脂肪酸に分類されます(2)。
必須脂肪酸の種類
脂肪酸は構造的に、炭素と炭素の間に二重結合がひとつもない飽和脂肪酸と二重結合がある不飽和脂肪酸に分類できます。
脂肪酸 |
不飽和脂肪酸 |
一価不飽和脂肪酸 |
オレイン酸 |
多価不飽和脂肪酸 *体内で合成できないので必須脂肪酸と呼ばれている* |
オメガ3脂肪酸 EPA、DHA、α-リノレン酸 |
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オメガ6脂肪酸 リノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸 |
|||
飽和脂肪酸 |
牛、豚、動物の脂や乳製品に多く含まれる |
不飽和脂肪酸は、二重結合が一つのものを一価不飽和脂肪酸、2つ以上あるものを多価不飽和脂肪酸と呼びます。
多価不飽和脂肪酸には必須脂肪酸が含まれています。多価不飽和脂肪酸は二重結合の場所によって、オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸にさらに細かく分けられるのです。
オメガ3脂肪酸
EPAやDHAはオメガ3脂肪酸に属し、心臓の健康によいとされています。
妊婦は胎児の器官生成のため、授乳中の女性は、子供の脳の発達を支えるために、オメガ3脂肪酸を十分に含む母乳を分泌できる量を摂取することが重要です。
α-リノレン酸は亜麻仁油やキャノーラ油、エゴマ油などの植物油とくるみなどのナッツ、EPAやDHAは青魚や魚油などに多く含まれています。
オメガ6脂肪酸
オメガ6脂肪酸は、細胞膜を構成する重要な成分であり、体内の多くの機能が正常に働くために必要不可欠な栄養素です。
リノール酸やアラキドン酸、γ-リノレン酸などがあり、リノール酸は植物性食品に含まれ、日本人が摂取するオメガ6脂肪酸の約98%を占めています。(1)
リノール酸は、大豆油やコーン油、ベニ花油など、アラキドン酸は鶏もも肉や豚もも肉、卵などに多く含まれています。
必須脂肪酸の働き
必須脂肪酸は、生命の維持に不可欠な役割を果たしています。
1. 細胞膜の構成要素
必須脂肪酸(アラキドン酸)は、細胞膜の主な構成成分であるリン脂質の構成要素として働いています。
2. ホルモン様物質の前駆体
必須脂肪酸(アラキドン酸)は、血圧降下作用や気管支収縮作用など体内で生命維持に関与するホルモン様物質(プロスタグランジン、ロイコトリエン)が合成される前段階の物質(前駆体)です。
3. エネルギー源として機能
食べ物から摂取された必須脂肪酸は、消化後血液中に放出され細胞膜から細胞内に取り込まれ、ミトコンドリアでエネルギーに変換されます。
このように必須脂肪酸は、効率の良いエネルギー源として機能しているのです。
4. 脳の機能維持
必須脂肪酸、特にオメガ3脂肪酸は、脳の機能維持に欠かせない役割を果たしているといわれています。情報の伝達をスムーズにし記憶力や認知機能サポートし、脳の老化を抑制するという報告もされています。(3)(4)
5. 皮膚の健康維持
必須脂肪酸は、皮膚のバリア機能を維持する役割を果たし、水分保持能力を高める働きがあると考えられています。また、必須脂肪酸の中には炎症を抑える働きがあるものもあり、皮膚の乾燥や炎症を抑え健康な状態を維持するには必要だといわれています。(5)
必須脂肪酸を含む食品
必須脂肪酸は、健康維持に不可欠な栄養素ですが、とりすぎると逆に健康に悪影響を及ぼしてしまうことがあります。必須脂肪酸が含まれている食品を把握し、適切な量をとるように心がけることが大切です。ここでは、それぞれの必須脂肪酸を多く含む食品を紹介します。(6)
成分 |
含有量の多い食品 |
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オメガ3脂肪酸 |
DHA / EPA |
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α-リノレン酸 |
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オメガ6脂肪酸 |
リノール酸 |
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アラキドン酸 |
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DHA&EPAを含む食品
1.タイセイヨウサケ
タイセイヨウサケは、EPAが豊富です。焼いたり、刺身として楽しむことができます。
2.あんこう
あんこうもEPAを含む魚で、特にその肝臓部分が栄養価が高いです。煮物や刺身で楽しむことができ、独特の味わいが楽しめます。
3.ミナミマグロ
ミナミマグロは、脂身が多く、EPAを多く含んでいます。寿司や刺身として食べるのが一般的で、濃厚な味わいが魅力です。
4.しめさば
しめさばは、酢で締めたサバで、EPAが豊富です。酸味が効いていて、ご飯との相性も良く、栄養価の高い魚です。
5.さんま
さんまは、EPAを含む脂ののった魚で、焼いて食べるのが人気です。秋の味覚としても知られ、栄養も豊富です。
6.まぐろ
まぐろは、DHAの代表的な食材で、特に脂ののった部分に多く含まれています。刺身や寿司として食べるのが一般的で、栄養価が高いです。
<オメガ3脂肪酸(DHA+EPA)が多い食品とは>オメガ3脂肪酸が多い食品ランキング10選!たっぷりオメガ3を食べましょう
α-リノレン酸を含む食品
1.エゴマ油、エゴマ
エゴマ油は、α-リノレン酸が豊富な油です。小さじで料理に取り入れることで、簡単にα-リノレン酸を摂取できます。
もちろん、エゴマの種子もα-リノレン酸が豊富で、スムージーやヨーグルトにトッピングすると、美味しく摂取できます。
2.亜麻仁油、亜麻仁
亜麻仁油もα-リノレン酸が豊富に含まれているで、サラダやスムージーに加えると必須脂肪酸を摂取できます。
亜麻仁の種は、α-リノレン酸を含むだけでなく、食物繊維やタンパク質も豊富です。さまざまな料理に使うことができます。
3.チアシード
チアシードは、α-リノレン酸を含むスーパーフードで、水に浸すと膨らむ特性があります。デザートやスムージーに加えると栄養がアップします。
リノール酸を含む食品
1.サフラワー油
サフラワー油は、リノール酸が豊富な植物油で、サラダドレッシングや料理に広く使用されています。軽やかな味わいで、様々な料理に適しています。
2.ぶどう油
ぶどうの種から抽出された油で、リノール酸が豊富です。高い抗酸化作用もあり、健康に良い脂質として注目されています。
3.ひまわり油
リノール酸を多く含む油で、料理やドレッシングに使われます。さっぱりとした風味が特徴で、使いやすい油です。
4.綿実油
綿の種子から作られる油で、リノール酸が豊富です。揚げ物や炒め物に使われることが多く、風味が少ないため、様々な料理に利用できます。
5.とうもろこし油
とうもろこし油は、とうもろこしの胚芽から抽出される油で、リノール酸を豊富に含んでいます。高温調理に適しており、フライや焼き物に最適です。
アラキドン酸
1.たまご
たまごはアラキドン酸を多く含み、手軽く買える食材です。特に卵黄に多く含まれています。朝食や料理に取り入れやすく、栄養価も高いです
2.豚肉
豚肉には必須脂肪酸であるアラキドン酸が含まれています。特に脂肪分の多い部分に多く含まれており、焼き物や煮物として楽しむことができます。
3.あんこう
あんこうはEPAとDHAの他、アラキドン酸も豊富な魚です。
4.ぼらぼら
アラキドン酸を含む魚で、刺身や焼き物として楽しまれます。脂ののった部分に栄養が集中しています。
5.くじら
くじらの肉もアラキドン酸を含む食材です。特に脂身の部分に多く含まれ、独特の風味を持っています。
必須脂肪酸が不足するとどうなる?
必須脂肪酸は、体内で生成されないため食べ物から取るしかありませんが、非常に少ない量しか取らなかった場合、体のさまざまな機能に悪影響を及ぼす可能性があることが知られています(必須脂肪酸欠乏症)。
ここでは必須脂肪酸が不足するとどのような影響があるのかを紹介します。
皮膚への影響
必須脂肪酸は皮膚のバリア機能の維持に関わっているため、必須脂肪酸が不足すると、皮膚の保湿能力が低下して乾燥しやすくなり、かゆみや乾燥肌、赤み、湿疹などの症状を引き起こす可能性があります。
皮膚炎は、鱗状で全身にあらわれ、乳児では先天性魚鱗癬に似た症状があらわれる場合があります。
脳機能への影響
必須脂肪酸のDHAは、脳細胞の膜に存在しており、特に記憶や学習能力に関係している海馬に多いことがわかっています。
そのため、DHAが不足すると記憶力や認知力に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。小児では知的障害、高齢者では認知症を発症しやすくなるともいわれています。
心血管系への影響
EPAやDHAは血中の中性脂肪を減少させ、動脈硬化の進行を遅らせる作用があるといわれています。そのため、EPAやDHAが不足すると動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞、高血圧などの心血管疾患のリスクが高まるとされています。
一方、同じ必須脂肪酸であるアラキドン酸は、高血圧や動脈硬化を促進することがわかっているため、過剰に摂取すると心筋梗塞などの動脈硬化性疾患の発症リスクが高まるので注意が必要です。
成長や発育への影響
オメガ3脂肪酸は、胎児の脳と目の発達に関係し、乳幼児の認知機能や視覚の発達をサポートしています。
そのため、オメガ3脂肪酸が不足すると、発達障害や発達遅延が生じる可能性が指摘されています。妊婦は、胎児の器官生成のため、妊娠していない人よりも多くのオメガ3脂肪酸を摂取する必要があります。(7)
必須脂肪酸1日の推奨摂取量は?
厚生労働省は、健康の保持・増進を図る上で必須脂肪酸の1日当たりの推奨摂取量を定めています。
必須脂肪酸であるオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸の1日の推奨摂取量について、以下のようにまとめられます。
オメガ3脂肪酸の食事摂取基準(g/日)
年齢 |
男性(g) |
女性(g) |
0~5 (月) | 0.9 | 0.9 |
6~11 (月) | 0.8 | 0.8 |
1~2歳 |
0.7 |
0.7 |
3~5歳 |
1.2 |
1.0 |
6~7歳 |
1.4 |
1.2 |
8~9歳 |
1.5 |
1.4 |
10~11歳 |
1.6 |
1.7 |
12~14歳 |
2.2 |
1.7 |
15~17歳 |
2.2 |
1.7 |
18~29歳 |
2.2 |
1.7 |
30~49歳 |
2.2 |
1.7 |
50~64歳 |
2.3 |
1.9 |
65~74歳 |
2.3 |
2.0 |
75歳以上 |
2.3 |
2.0 |
妊婦 |
- |
1.7 |
授乳婦 |
1.7 |
参考:「日本人の食事摂取基準(2025年版)」/厚生労働省
オメガ6脂肪酸の場合:
- 男性:18~29歳で12g、30~49歳で11g、50~64歳で11g、65~74歳で10g、75歳以上で9gが推奨されています。
- 女性:18~29歳で9g、妊婦で9g、授乳婦で9g
各必須脂肪酸の摂取量は、どちらの脂肪酸もバランスよく取ることが大切です。表をみると男女ともに1日あたりの摂取量の目安として、オメガ6脂肪酸はオメガ3脂肪酸の4〜5倍取ることが推奨されていることがわかります。
オメガ3脂肪酸が不足すると
まとめ
必須脂肪酸の種類や役割、多く含まれている食品、1日当たりの推奨摂取量などを紹介しました。必須脂肪酸は、健康を維持するために必要不可欠な栄養素です。
不足すると健康に悪影響を及ぼす可能性があります。体内では生成されないため、食べ物から取り入れなければいけません。
必須脂肪酸が多く含まれている植物油やマグロやサバなどの青魚を、日々の食事に取り入れて、自身の健康を守りましょう。