DHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)は、人間の体内で作れないために食事で摂ることが必要な必須脂肪酸の一種です。
青魚に多く含まれている成分であり、特に脳や心臓など、さまざまな臓器の健康を守る効果が期待されています。
DHAとEPAを効率的に摂取するにはいくつかの方法があり、ご自身に合った摂取方法を知ることも大切です。
DHAとEPAの情報
DHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)は、さけ、さばなどの青魚に多く含まれて、人間の体内で必要な量を作り出すことができず、食品からの補給が必須である必須脂肪酸です。
DHAとEPAは、どちらも多価不飽和脂肪酸であるオメガ3脂肪酸の一種ですが、DHAとEPAの働きは異なるため、両方を同時に摂取するのは相乗効果が期待されています。
3分でわかるEPAとDHAの違い
EPAとDHAは、どちらでもオメガ3脂肪酸に属しますが、化学構造と効果が違います:
化学構造の違い
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DHA(ドコサヘキサエン酸)22個の炭素原子と6つの二重結合を含んでいます。(2)
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EPA(エイコサペンタエン酸)は、20個の炭素原子と5つの二重結合を含んでいます。
効果の違い
DHAの効果キーワード:脳、学習、認知、目
DHA (Docosahexaenoic Acid, ドコサヘキサエン酸)は、お体の脳、神経、網膜の光受容体に高い濃度で分布し、情報の伝達をスムーズにするほか、脳の発育や視力の向上に関与しています。
脳機能に対する働きについて、具体的には、脳内のネットワークを作っている「神経細胞」の働きを活性化させ、脳内の「海馬」の機能や情報処理をはじめとした脳機能、記憶力の向上が期待できるのです。
また、関連する研究によれば、高齢者は年齢とともに体内のDHA含有量が減少するため、適応能力に影響を与える可能性があります。(3)
他には、DHAの効果は認知症や視力低下の予防に加え、動脈硬化の予防改善・抗がん作用などが期待されています。
食事から十分なDHAを摂取することで、学習能力と集中力をキープし、体のめぐりにサポートできます。
EPAの効果キーワード:血流のサラサラ、メンタルの安定、中性脂肪低下
EPA(Eicosapentaenoic acid, エイコサペンタエン酸)脳内にはほとんど存在しませんが、体内で多くの生理活性伝達物質を生成し、新陳代謝を促進し、生理機能を調節することができます。
特にEPAの血液をサラサラにする働きが優れています。
ヒトによる実験では、EPAを摂取すると、EPAが赤血球の膜に取り込まれて赤血球が柔軟になり、血液の粘度が低下してサラサラになることが確認されています。
一方、DHAを摂取した場合、EPAほど赤血球の膜に取り込まれにくく、赤血球の柔軟性や血液の粘度に改善は見られなかったという結果が報告されています。※S.Kobayashi Sixth International Prostaglandin Conference.866-870,1986
EPAの血栓予防効果に加え、抗炎症作用や高血圧予防効果などが期待されています。また、EPAによる中性脂肪低下作用がDHAより高いと示唆されています。健康を維持する上で大きな貢献をします。
血液のサラサラの働きの他に、高濃度のEPAは血管のメンテナンスとメンタルの安定に関連しているので、血流とメンタルの安定をサポートしてくれます。ほぼ純度100%のEPAは医薬品としてが開発され、多くのヒト試験を通じて中性脂肪値を下げたり血栓を予防したりする作用が明確になっています。その結果、EPAは高脂血症や閉塞性動脈硬化症の治療薬として使用されています
外食が多い、運動不足、または仕事でストレスを溜めやすい人には効果的です。
詳しい説明:EPAの効果と働き:体と心に対する6つの健康効果を詳しく解説
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DHAとEPAの効果の比較表
DHA |
EPA |
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効果 |
DHAは乳幼児の成長と学習能力の発展と高齢者の認知機能に非常に重要です。EPAは成人のめぐりや
DHAとEPAの効果を徹底解説
DHAやEPAには、健康に関するさまざまな効果が期待されています。ここでは科学的根拠とともに、いくつかの効果をご紹介いたします。
DHA・EPAの効果1. 中性脂肪の低下
DHAやEPAの摂取によって、中性脂肪が下がることが知られています(4)(6)。
2007年にオックスフォード大学から発表された論文によると、2型糖尿病患者さんを対象にした18本の論文をメタ解析した結果、食事またはサプリメントからDHAを摂取した群において、平均治療期間8.9週間で中性脂肪が平均25%低下しました(5)。
EPAのエステル体は「閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛および冷感」や「高脂血症」に対する治療薬として国から認可を受け、医療機関で処方されています。
また魚由来のDHAやEPAを配合し、機能性成分として「血中中性脂肪低下」を謳った商品が発売されています。
薬剤としてのEPAとDHAは脂質異常症の治療に使用され、血中の中性脂肪を下げる効果があります。また、EPAはほぼ純度100%の医薬品は高脂血症や閉塞性動脈硬化症の治療薬として使用されています。
DHA・EPAの効果2. 認知機能低下を予防する可能性
DHAやEPAを摂ることで認知機能が向上する、もしくは認知症の治療に有用であるとするエビデンスは残念ながら今のところありませんが、認知機能低下を予防する可能性があるとする報告はいくつかみられています。
特に、認知症の原因の一つであるアルツハイマー型認知症に関しての報告が相次いでいます。
日本からは、関連するいくつかの論文を集めて解析を行った結果、「脳内での抗酸化・抗炎症作用、アミロイドβタンパク質の脳内沈着阻害作用、神経新生促進作用、ミクログリアによる神経保護作用の活性化」などが明らかになりました。
これにより、加齢性認知機能低下(ARCD)や認知症の一歩手前である軽度認知障害(MCI)による高齢者の認知機能低下を予防・改善する可能性があると報告されています。(2)(3)
またアルツハイマー病に関して、遺伝的な危険因子とされるアポリポ蛋白(apoE4)の影響が、DHAを豊富に含む魚油食にて弱められたとする動物実験の結果が報告されています。
DHA・EPAの効果3. 記憶力の向上
DHAは記憶力の向上が期待でき、短期記憶と長期記憶の両方によい影響を与えることが示されています(1)。
多くの研究でDHA・EPAを含めたオメガ3脂肪酸を取り入れた結果、記憶力の改善効果がみられたことがわかっています。
記憶力を向上させる理由としては、以下のとおりです。
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脳細胞の保護
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神経ネットワークの活性化
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神経同士のやり取りの強化(脳神経間の情報伝達機能)
認知症の患者に関する研究では、DHA&EPAの血中濃度が高い場合、脳の海馬(短期記憶に関与する部分)の容積が大きいという結果が示されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36198518/
さらに、DHAは記憶だけでなく学習能力や集中力の向上にも関連しています。
そのため、DHAを積極的に摂取することで、勉強や仕事の効率化が期待できるでしょう。このように、DHAは日常生活を送るうえで必要な記憶力や認知機能の向上に貢献する栄養素といえます。
しかし、このような成果を示す論文がある一方で、異なる結果を示す研究も多く存在しています。DHAとEPAの効果は個人差があり、摂取量や期間によっても変化するので、すべての方に当てはまるわけではありません。
DHA・EPAの効果3. 心疾患リスクの低減
DHAやEPAといったオメガ3脂肪酸の摂取は、心疾患のリスクを低減する可能性があります。(7)
血栓の予防
EPAには、血液中にある血小板の働きを鎮め、血のかたまり(血栓)ができるのを防ぐ効果があります。
動脈硬化の予防
また動物実験モデルにて、動脈硬化が進行してできた血管内のプラーク(粥腫:じゅくしゅ)の壁が薄くなった部分に入り込み、プラークの中身であるコレステロールが破裂するのを防いでいることがわかりました。(8)(9)
心血管疾患による死亡率の低下
魚の摂取が健康に良い可能性を最初に示したと言われる1970年代半ばの報告によると、イヌイット(デンマーク領グリーンランドの先住民)はデンマークに住む白人よりも心血管疾患による死亡率が非常に低いことが分かりました。
イヌイットの主食はアザラシの生肉や魚介類であり、オメガ3脂肪酸(n-3系脂肪酸)の摂取量がとても多く、中性脂肪などが低かったことが確認されています。
さらに、デンマークに移住したイヌイットは白人と変わらない脂質代謝となったことから、彼らの低い死亡率は、オメガ3脂肪酸(n-3系脂肪酸)の作用によるものであると考えられました(10)。
日本でも2014年に厚生労働省の研究班が行った報告によると、日本の一般成人9190人を24年間にわたり観察した結果、食事からのオメガ3脂肪酸(n-3系脂肪酸)摂取量が多ければ多いほど、循環器疾患、冠動脈疾患及び脳卒中での死亡率が低かったことがわかりました(11)。
急性心筋梗塞と冠動脈疾患の発症率の低下
また、日本人を対象に、長期間医療用のEPA製剤を内服した効果をみた研究では、EPA製剤を内服した群において、急性心筋梗塞や不安定狭心症といった冠動脈疾患の発症率が低いことが報告されています(12)。
さらに、米国人において、オメガ3脂肪酸(n-3系脂肪酸)、及びDHAの摂取量が多い人ほど、追跡期間中の不整脈(心房細動)の発生が少なかったとする報告があります(13)。
DHA・EPAの効果4. 炎症の抑制
オメガ3脂肪酸(n-3系脂肪酸)の作用として、抗炎症作用が期待されています。動物実験レベルでは、オメガ3脂肪酸(n-3系脂肪酸)が多いマウスで炎症性腸炎や急性肝炎、網膜編成疾患などにおける抗炎症作用やメラノーマ・大腸がんなどに対する抗がん作用が確認されています(14)。
また、免疫機構が自分を攻撃するため全身に炎症が起こる病気である慢性関節リウマチが進行するのを抑える効果が期待されます。
腫脹関節の数を減らしこわばりを改善させたとする報告や、痛み止めの使用量を減らしたとする報告も見られます(15)(16)(17)。
DHA・EPAの効果5. 妊婦と胎児の健康への影響
胎児の成長
妊娠中は、胎児の器官形成のため、通常よりも多くの量のDHAを摂取する必要があるとされています(18)。
また、発展途上国のデータでは、妊娠中にオメガ3脂肪酸(n-3系脂肪酸)の摂取量を増やすかサプリメントを摂取することで、出生体重、体調、妊娠月齢がわずかに改善する可能性が報告されています。
赤ちゃん早期の成長
さらに、早産で生まれた赤ちゃんにおいて、普通のミルクよりもDHAおよびn-6脂肪酸の一種であるアラキドン酸を強化した退院用ミルクを与えられた赤ちゃんは、正規産用ミルクもしくは人の母乳を与えられた赤ちゃんよりも、出産後早期の成長が促された可能性がありました。
これらの研究結果から、オメガ3脂肪酸の摂取が妊婦や早産児の健康にプラスの影響を与える可能性が示唆されています(19)。
DHAとEPAの効果を引き出すための摂取量は?
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」によれば、DHAやEPA単体での摂取量の目安は設定されていませんが、DHAおよびEPAを含むオメガ3脂肪酸(n-3系脂肪酸)の一日の目安量は以下通りです。
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男性
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18~49歳:2.2g
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50~64歳:2.3g
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65~74歳:2.3g
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75歳以上:2.3g
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女性
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18~49歳:1.7g
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50~64歳:1.9g
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65~74歳:2.0g
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75歳以上:2.0g
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また妊婦と授乳婦は1.7gと設定されています。
実際の摂取量を厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査」(20)で見てみると、調査対象者全体の摂取量平均は1日あたり2.36gでした、年代・性別に分けてみると、どの年代で見ても摂取目安量を満たしていましたが、年齢が若くなればなるほど実際の摂取量が減る傾向が見られました(1)。
おすすめのDHAとEPAの摂取方法
昔と異なり、現代の食事では青魚などDHAやEPAを豊富に含む食材を毎日コンスタントに用いることが少なくなっているのが一因と考えられています。
青魚に含まれるDHAやEPAは、主に脂身の中に存在しています。焼く・煮る・揚げるなど、調理の過程で逃げることが多く、脂を逃さない工夫をすると良いでしょう。
具体的な調理法としてはホイル焼きやムニエル、鍋料理などがおすすめです。またサバやイワシ、サンマなどの缶詰を利用するのも良いでしょう。
缶詰の汁にもDHAやEPAがたくさん含まれていますので、料理の際にうまく使ってみてください。
サプリメントによるDHAとEPAの摂取は、特に忙しい方におすすめです。青魚を用いた料理を毎日準備するのはかなりの手間ですが、サプリメントであれば決まった量を毎日手軽に摂取することができます。
ただしサプリメントによってDHAおよびEPAの含有量に大きな違いがあること、またサプリメントによっては食事の分と合わせると1日の摂取量をはるかに超える量のDHAおよびEPAを摂取する計算となることがありますので、ご自身の食事の量や種類によって、適切なサプリメントを選んでください。
食事からDHAとEPA摂取:
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DHAとEPAで健康の日々を
以上、DHAとEPAについて、簡単にまとめました。DHAとEPAは心疾患のリスクを低減したり、認知機能低下を予防したりなど、健康に良いさまざまな効果が期待される物質ですが、残念ながら人間の体内で必要な量を作り出すことができません。
DHAとEPAを効率よく摂取するには、バランスの良い食生活、特に青魚を積極的に食べることが最も良い方法です。
魚の脂に多く含まれる成分ですので、調理法にも工夫してみましょう。忙しくて食事の準備にまで手が回らない時などは、サプリメントの併用も選択肢の一つです。
サプリメントによって成分が異なりますので、購入する際にはしっかりと成分表を確認する習慣をつけましょう。