イチョウ(銀杏)の概要
イチョウ(学名:Ginkgo biloba)は、実は世界最古の現存する植木の一つであり、約6000万年前から現在の姿を保っていることが知られているほか、近縁種は約1億8000万年前のジュラ紀に存在していたことが確認されている、「生きた化石」と呼ばれるほど歴史のある植物です(1)。
イチョウは「ギンナン」として知られる独特な臭いのする実が印象的な木ですが、その葉も伝統的なハーブとして使用されてきた歴史があります。現代では、イチョウの葉は日本において一般的な健康補助食品として使用されており、アメリカでは最も広く販売されているハーブサプリメントの一つであるほか、欧州では医薬品として扱われているほど、その効能は広く知られています(2)。イチョウの最もよく知られている効果は、思考を促進し、計算能力を高める効能です。
イチョウの葉の栄養成分
イチョウの葉の効能が広く認識され始めたのは、1970年代初頭にドイツの医師により、イチョウの葉から抽出したエキスEGb761が標準化されたことがきっかけとされています(3)。
このイチョウ葉エキス抽出方法の研究以降、非常に多くの研究により詳細に分析されたことで、イチョウの葉にはさまざまな栄養成分が含まれることが明らかとされてきました(1)。イチョウの葉の成分のうち、主要な活性成分は、テルペン類とフラボノイドという2つの主要なカテゴリに大別されます。
イチョウの葉に含まれるテルペン類
テルペン類とは、炭素原子5個が連なった構造を基本とする生理活性物質の一つで、植物や微生物が他の生物から身を守るために作る物質などを含む、天然物質最大のグループです(4)。
イチョウの葉に含まれるテルペン類には、イチョウの学名Ginkgo bilobaにちなんで名付けられた、ギンコライドA、ギンコライドB、ギンコライドC、およびビロバリドが含まれます(2)。ギンコライドAやギンコライドBには、血小板の働きの調整を通じて、心血管機能や中枢神経系機能の保護作用が示唆されており、脳の働きを整えることに役立つ物質であると考えられています(5)(6)。同様に、ビロバリドも血小板の働きを調整して神経保護効果を発揮するほか、抗炎症作用や細胞死を調節する作用なども報告されています(7)。
イチョウの葉に含まれるフラボノイド
フラボノイドは、2つのベンゼン環が炭素原子を介して繋がったポリフェノールの一種で、イチョウの葉にはギンケティン、ビロベチン、ギンコール酸など70種類以上のフラボノイドが含まれることが知られています(2)。
フラボノイドやこれらの成分は、強力な抗酸化効果や、活性酸素などのフリーラジカルの働きを抑える効能など、血液循環を助けて幅広い効果に繋がることが研究で報告されています(8)。
イチョウの葉の効果に関する研究報告
イチョウ葉エキスには、上記の豊富な栄養素が含まれているため、抗酸化作用や神経保護作用があるほか、記憶力を維持して脳機能を高める効能があることも、ヒトを対象とした研究で示唆されています(2)。イチョウ葉エキスのヒトに対する効能を調べた研究報告をまとめると、次のようになります。
認知機能を維持する
イチョウ葉エキスを1日に240mg、22週〜26週間摂取した認知障害および認知症を持つ被験者グループにおいて、認知機能や行動機能の低下が抑制されたことが、メタ分析により明らかとされています(9)。
昔話や予定などの高度な記憶管理をサポートする
イチョウ葉エキスを1日に240mg、6週間摂取することで、「正しい予定リストを記憶して思い出す」などの記憶力テストの結果が向上し、高度な記憶管理をサポートする効能が示唆されたと報告されています(10)。
情報処理・ワーキングメモリ・処理速度など仕事に対する柔軟性をサポートする
イチョウ葉エキスを1日に120mg、30日間摂取した健康な若年層の被験者グループにおいて、ワーキングメモリや処理速度などの神経心理学的検査のスコアが上昇したと報告されており、イチョウ葉エキス働き盛りの方にとっても有用である可能性が報告されています(11)。
不安感を緩和してメンタルを整える
イチョウ葉エキスを1日240mgまたは480mg、4週間摂取することで、不安評価尺度のスコアが減少し、不安感が緩和された結果が報告されています(12)。
イチョウの葉の摂取がおすすめな人
イチョウ葉エキスは、記憶力をサポートする効能から、年配の方に送ることが多い健康食品です。中高年層は、物忘れが多くなり始めます。
例えば、鍵を持っていないことに気付いたり、物をどこへ置いたか忘れてしまったり、食事の後しばらくしてから自分が食事をしたかどうかが分からなくなったりするようなことも増えてきます。これらは、加齢に伴い記憶力や計算力などの認知機能を司る領域が衰えている兆候です。
「イチョウの葉の効果」で挙げた研究結果のように、イチョウ葉エキスはこのような高齢者の認知機能を支える効能だけでなく、忙しく働く世代や、ストレスを多く抱える方にとっても、無気力感や不安感を整える効能があると示唆されているため、幅広い世代にとって有用な健康食品と考えられます。
その中でも、特に以下の方々におすすめだと考えられます。
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中高齢の方:加齢に伴う認知機能の低下の抑制に有効であることが示唆されています(9)。
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忙しい職場やストレスの多い環境で働く方:ワーキングメモリや処理速度などを向上させて仕事の効率を高めるとともに、不安感を抑えることが示唆されています(12)。
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日常生活でスケジュールを立てることが多い主婦の方:食材や家事などを管理するために必要な、整理された思考を助けることが示唆されています(10)。
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多くの学習や理解が必要な学生の方:論理的思考と学習能力を高めることが示唆されています(11)。
イチョウの葉の副作用
イチョウの葉を用いた研究のなかでの安全性に関する報告をまとめた研究によると、イチョウ葉エキスの補給は、通常、製品の指示に従って摂取すれば、副作用のリスクは低いと考えられています(13)。
ただし、過剰摂取してしまった場合は、胃腸障害、頭痛、めまい、血の止まりにくさなどの症状が出てしまうこともあるため、注意が促されています。一般的には1日120mg〜240mgの範囲であれば副作用のリスクは高くないと考えられており、臨床研究での効果もこの範囲内の投与により報告されているため、同様の摂取量が推奨されます(9)。
また、加工されていない生のものや自家調理のイチョウを摂取すると、食中毒になる可能性があります。そのため、安全な抽出法を用いた製品を選び、食事と一緒に摂取するか、食後に摂取することでリスクを軽減できます。
さらに、以下に当てはまる方は医師や薬剤師との相談してから摂取することで、より安全なイチョウの葉の摂取に繋がります(14)。
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妊娠中や授乳中の方
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抗血液凝固薬や抗うつ薬などを薬物治療を受けている方
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手術を予定している方
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てんかん患者の方