カンゾウの由来と基本情報
カンゾウの歴史
カンゾウ(甘草)は、アジアを中心に生息するウラルカンゾウ(学名:Glycyrrhiza uralensis)が代表的な植物で、紀元前から既に使用されていたとされるほどの長い歴史がある、世界で最もよく使用される薬草のひとつです(1)
カンゾウはアジアだけでなく、ヨーロッパでも健康維持のために利用されてきた歴史があり、ヨーロッパを中心に生息するスペインカンゾウ(学名:Glycyrrhiza glabra)は、「リコリス(licorice)」という英名でもよく知られる植物です(2)。
ちなみに、日本で「リコリス」は、彼岸花(曼珠沙華)を指す言葉としてよく知られていますが、これはヒガンバナ属の学名Lycorisが由来となった園芸種名で、スペインカンゾウを指す英名「リコリス(licorice)」とは全く別のものです(3)。
カンゾウは、古くから食品への利用だけでなく、風邪薬や整腸剤、喉を潤す生薬としても利用されてきた歴史があり、近年の研究では、抗炎症作用や抗酸化作用、肝臓機能の保護、抗菌作用などの幅広い効能が示唆されています(4)。
カンゾウの由来と成分
カンゾウ(甘草)の由来は、その名の通り甘味があることからきています。カンゾウは豊富な多糖類を含んでおり、特にグリチルリチンは砂糖の50倍〜200倍もの甘味を持つとされる、天然甘味料の1つです(5)。カンゾウエキスはその甘みから、多くの料理で塩味を抑える目的や、風味を加える目的で利用されてきました(6)。
日本でも、醤油や菓子、煙草の天然甘味料として広く用いられています。また、料理への活用に適しているだけでなく、カンゾウには幅広い効能を持つ成分が含まれていることも、研究により示唆されています(7)。
カンゾウは薬食同源の植物であり、多糖類の他にも栄養素を多く含んでいます。カンゾウの成分には、トリテルペン配糖体(トリテルペノイドサポニン)、グリチルリチン、フラボノイドなどのよく知られる成分に加え、カンゾウ特有のリコリチジンなどの成分も含まれています(8)。
カンゾウに含まれる栄養素は非常に多く、抗酸化作用、抗炎症作用、抗菌作用などの幅広い効能が、研究により示唆されてきました。
カンゾウの3大効能
カンゾウの栄養素は非常に豊富かつ特有のものも多いため、その特有の成分がさまざまな領域で研究されてきました。本記事では、カンゾウが持つとされる最も代表的な効能を、3つに厳選して説明します!
抗炎症作用
カンゾウの効能で最も代表的なものが、その抗炎症作用です。
マウスモデルを用いた研究では、カンゾウ(ウラルカンゾウGlycyrrhiza uralensis)のエキスの投与により、炎症反応のマーカーであるインターロイキン6(IL-6)やIL-1βの発現量が減少し、炎症反応が有意に抑制されたことが確認されています(9)。
ヒトを対象とした研究の報告例を挙げると、大腸がんの化学療法を受けている患者に対して、さまざまな生薬を補助療法として投与する効果を検証した多くの臨床研究が行われ、その膨大なデータを元に、抗がん剤の副作用の軽減と関連がある生薬を特定するメタ分析研究が行われました(10)。
このメタ分析研究では、2010年から2020年までにデータベースへ登録された計2000人ほどの患者に対するデータが対象となり、嘔吐・口腔粘膜炎・腹痛などの副作用を緩和したと考えられる生薬が5つ特定され、そのうちの1つがカンゾウ(ウラルカンゾウGlycyrrhiza uralensis)だったと報告されています。
多くの研究により、カンゾウが含む豊富な多糖類やフラボノイドなどの栄養素が、カンゾウの抗炎症作用に寄与していると考えられています。
抗酸化作用
カンゾウの代表的な効能のひとつが、その抗酸化作用です。
カンゾウには、豊富な多糖類が含まれていることが広く知られており、カンゾウ由来の多糖類を用いた研究では、酸化ストレスの要因である活性酸素(スーパーオキシドラジカル)を除去する効果が報告されています(7)。
また、カンゾウに含まれる8つの主要成分(リキリチン、イソリキリチン、リキリチゲニン、イソリキリチゲニン、グリチルリチン酸、リコカルコンA、グラブリジン、グリチルレチン酸)と、抗酸化作用などの各効能との間に相関関係があるのかを調べた研究でも、これらの成分が活性酸素の除去の有効性と相関があると報告されています(4)。
これらのさまざまな研究から、カンゾウに含まれる多くの成分が、その抗酸化作用において重要な働きをしていることが示唆されています。
抗菌作用と免疫力の強化
古来から用いられてきたカンゾウの一般的な使われ方は、免疫力の強化や喉を潤す効果を目的としたものです。
カンゾウエキスは強力な抗菌作用、抗ウイルス作用があることが広く知られており、特に口腔内の病原菌を殺菌する歯科用途のカンゾウ利用に関する研究は、近年注目を集めています(11)。
実際にヒトを対象とした研究でも、60人のボランティアをカンゾウエキスうがいグループと生理食塩水うがいグループに分け、1日1回のうがいを5日間続けてもらった後、口腔環境を歯科衛生士が確認した結果、カンゾウエキスでうがいをしたグループで口腔内の細菌が減少していたと報告されています(12)。
また、上記の抗酸化作用や抗炎症作用は、免疫系や肝臓の機能などにも深く関わると考えられており、カンゾウ摂取による免疫力の強化の効能も示唆されています(8)。
カンゾウにはどのような副作用がある?甘草摂取の一日量の上限も解説!
カンゾウには健康に有益な栄養素が多く含まれており、上記のヒトを対象とした研究でも安全性の高い植物として認識されています(10)(12)。しかし、過剰摂取については注意喚起がされているので、カンゾウ摂取で気をつけるポイントを解説します!
甘草摂取の一日量の上限
しかし、日本漢方生薬製剤協会では、1日のカンゾウ摂取量が2.5gを超える(グリチルリチン酸が1日100mgを超える)量のカンゾウ含有漢方製剤を摂取すると、低カリウム血症のリスクが高まるとして、過剰摂取への注意換気がなされています(13)。
低カリウム血症とは、血液中のカリウム濃度が非常に低くなることで、筋力低下、筋肉のけいれんやひきつりなどの症状をきたす疾患です。カンゾウを過剰に摂取した場合に低カリウム血症を起こすリスクが上がる要因は、腎臓での正常な尿生成が阻害されて、カリウムを過剰に排泄してしまうことであると考えられています。
甘草との併用を注意すべき医薬品
また、利尿薬や、副腎皮質ホルモンを含有するステロイド剤などの医薬品を摂取している場合にカンゾウ製品を併用することも、低カリウム血症による高血圧や下痢などの副作用のリスクを高めるとされ、注意が促されています。
このような過剰摂取や薬との相互作用に関する注意喚起を踏まえた上で、すでに医薬品を服用している方は、カンゾウエキスを含む製品と同時に服用することへの注意が必要です。
カンゾウ含有製品を重複して使用せず、過剰摂取へ注意しながら、全身の倦怠感や脱力感、血圧上昇などの症状がないかを意識しながら摂取すると、より安全で効果的にカンゾウを利用できると考えられます。